米共和党の内なる敵「フリーダム・コーカス」
米債務上限問題を巡る不透明感が継続しています。根底にあるのは2024年の次期大統領選挙を有利に運びたい米与党民主党・野党共和党の対立。歩み寄りをより難しくしているのは共和党内の強硬派「フリーダム・コーカス」と呼ばれる集団の存在です。
「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」は、共和党内の主だった4会派のなかでも極めて保守的な集まりです。現時点ではドナルド・トランプ前大統領支持とされている会派です。
ただ、2017年に当時のトランプ大統領が民主党による前政権下で成立したヘルスケア法案いわゆる「オバマケア」の代替法案成立を目指した際は、「フリーダム・コーカス」が支持せず代替法案への移行は頓挫しています。トランプ大統領の求心力低下が意識されました。
この時、トランプ氏はオバマケアの改廃失敗について「フリーダム・コーカス」を批判。同会派は節目節目で議会運営をかく乱することがあります。2022年中間選挙後の下院議長選出において、投票15回でようやく議長が決定した際も「フリーダム・コーカス」を中心とした議員の造反が混乱の背景にありました。
今回の債務上限問題で「フリーダム・コーカス」は、民主党が主張する債務上限の引き上げを容認する条件として、民主党が善戦した中間選挙の公約でもあった学生ローン免除や、電気自動車(EV)購入時の税額控除額など気候変動対策予算の見直しをあげています。その他、政策判断でコントロールできる裁量的経費の水準維持を「10年間続けよ」など厳しい要求を出しています。
米現地22日の与野党協議後、共和党のマッカーシー下院議長からは債務上限問題について「合意に達しなかったが、協議は建設的だった」との見解が示されました。バイデン大統領も「債務不履行の選択肢はないという点で米下院議長と一致」としており、歩み寄りへ前向きな双方の姿勢にマーケットがポジティブな反応を示す場面もありました。
しかし、強硬派「フリーダム・コーカス」が債務上限引き上げに対する厳しい前提条件の要求を崩さず、共和党内が一枚岩になれないことが足かせになっています。共和党にとって問題解決のための最も手強い敵が党内にいるといっていいでしょう。
「フリーダム・コーカス」リスクへネガティブな反応も
「フリーダム・コーカス」の行動にマーケットがネガティブに反応する場面も散見されます。5月に入ってNYダウは下げ渋る傾向にありました。しかし、16日にバイデン大統領と共和党首脳の会談が1時間あまりで終了して協議が主要7カ国(G7)首脳会議(G7広島サミット)後に持ち越された局面や、先週末19日に与野党の交渉が一時中断と伝わった際などに反落しています(図表参照)。今週も協議停滞が重しになっています。
一方で米10年債はインフレの高止まりや比較的強めな米経済指標を手掛かりに売られ(利回りは上昇)、金利水準は3.3%台から3.7%台まで切り上がりました。ただ、米債デフォルトのリスクを警戒した債券売りによる悪い金利上昇の側面が内包されている可能性も頭の隅に置いて臨みたいところです。
ドル円は、米金利上昇や、日経平均株価の上昇も相まって足もとで139円近くまで戻しています。しかし、悪い米金利上昇の側面がより意識される事態となった場合は、リスク回避の円買いで調整のドル安・円高方向へ振れる展開もあり得るでしょう。
円高に振れれば、輸出企業の採算悪化を要因に本邦株価が重い動きになることが考えられます。「フリーダム・コーカス」の行動がマーケットに不透明要因を与える状況が続いています。