「チャレンジングな状況」ほか日銀高官発言が金利押し上げ
日銀の植田総裁が来週の金融政策決定会合を控えるなか、政策運営に関して「チャレンジングな状況」と述べたことで、マイナス金利解除を含む緩和解除へ思惑が高まりました。急速な日米金利差縮小につながるかどうか不確かですが、緩和解除の方向性を見据えてじりじり円買い圧力が強まっていく可能性も意識しておいた方がよいでしょう。
12月18日(月)・19日(火)に今年最後の日銀金融政策決定会合を控えるなか、7日の参議院財政金融委員会に出席した植田日銀総裁が「『チャレンジングな状況』が続いているが、年末から来年にかけて一段と『チャレンジングな状況』になる」と述べたことでマイナス金利解除の観測が高まっています。
これに先がけ6日、氷見野日銀副総裁が大分県金融経済懇談会の講演で、賃金上昇と物価の好循環について「変化は着実に進んでいる」と発言。マイナス金利解除など政策転換の時期については「特定の予想は現在持っていない」と述べたが、出口政策を左右する状況についてポジティブな見解を示したとしてマーケットの注目を集めました。
総裁、副総裁が相次いで金融政策決定前に政策に関する情報を外部にコメントすることを禁じるブラックアウト期間を前に緩和政策後退に前向きな姿勢を示したと受け止められました。この動きを受けて本邦10年債利回りは急反発(価格は低下)しています。
7日には30年債入札の応札倍率が2015年以来の低水準になったこともきっかけに0.6%台から0.7%台へ。植田総裁の発言が追い打ちをかけた8日には0.8%台を回復(図表1)。長期金利はすでに10月末から11月にかけて10年ぶりに0.9%台へ乗せていったん失速した後の利回り回復ではありますが、会合を目前にした急反発がマイナス金利解除の思惑を急速に高めました。
短いブラックアウト期間入り前の発言で右往左往
その後、11日の海外マーケットで「日銀はマイナス金利やYCC(イールド・カーブ・コントロール)の撤廃などを今月急ぐ必要はほとんどないとの認識」との一部通信社報道で円売りが進んだり、翌朝の東京マーケットでは日経新聞朝刊が「(日銀がマイナス金利政策を)12月に解除を事前予告するとの見方もある」と伝えて円が買い戻されたりと、観測記事でも円相場は右往左往しました。
日銀のブラックアウト期間が他国の中央銀行と比べて非常に短く2営業日前(※各金融政策決定会合の2営業日前、会合が2営業日以上にわたる場合には会合開始日の2営業日前)であるため、直前まで「チャレンジングな状況」とされる緩和解除に関連した追加的な発言が出てくるのではとの見方もマーケットを揺さぶる一因となりました。
ちなみにアメリカの中央銀行にあたる米連邦準備理事会(FRB)のブラックアウト期間は通常、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)開催の前々週土曜日から。欧州中央銀行(ECB)が政策を決める理事会を控えたブラックアウト期間にあたるクワイエット期間(quiet period)は1週間前からです。
こうした緩和解除への動きがあっても、日米の金利差は依然として大きく、縮小が急速に進むかどうか不透明な部分があります。マーケットがいったん冷静になり巻き戻しが進む場面もあるでしょう。
ただ、じりじりと金利差が縮小していく流れは残るとみます。緩やかかもしれませんが「チャレンジングな状況」で円買い戻しへの意識が高まっていく展開も想定しつつ臨むべきでしょう。