日銀、拙速な政策変更を回避「YCC・マイナス金利継続」へ
植田日銀新総裁は、4月10日19時15分ごろから行われた就任会見で、現行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、「YCC」)や「マイナス金利」について、「継続が適当」と述べました。黒田前総裁が10年に及んで推し進めてきた異次元緩和の副作用にも触れ、「点検や検証はあってもいい」としつつも、早急な政策の見直しを想定していないとの考えを示しています。
金融マーケットでは植田新体制のもと、それまで黒田体制で推し進めてきた緩和策が修正されるとの思惑がくすぶっていました。しかし、大規模緩和の「出口」へ向けた流れはいったん保留。「YCC・マイナス金利継続」観測を受け、外国為替市場は円売りで反応しました。
イースターマンデーにあたり欧州勢不在のなか、ドル円は132円前後から円安方向へ転換。薄商いの状態も値動きを軽くして一時133.87円と、3月15日以来の高値まで上昇しています。
会見に先がけ、植田総裁は岸田首相と官邸で会談を行っていました。会談後の取材で、2013年にデフレ脱却と持続的な経済成長の実現のためにまとめた「政府・日銀の共同声明」について、「直ちに見直す考えはないと一致」とも述べていました。
拙速な金融緩和解除が、景気へ悪影響を与えることを懸念する政府の意向に、日銀が同調したとの見方もできます。もっとも、かつてない異次元の規模・期間において続けられてきた金融緩和から脱することには相当な慎重さが必要です。政府の圧力があろうがなかろうが、植田総裁が政策運営を注意深く進めていくべきであることに変わりはないでしょう。
為替は米金融政策との兼ね合いも考慮すべき、CPIに注目
ただ、慎重な日銀の政策運営を反映した円安の持続性を判断する際には、米金融政策との兼ね合いにも気を付けるべきです。円安が進みやすい状態であっても、ドル相場が軟調となれば、ドル円の上値は重くなってしまうでしょう。
気掛かりなのは10日、132円付近から134円回復をうかがう水準まで大きく円安・ドル高が進んだ局面でも、米連邦準備理事会(FRB)の次回5月2-3日会合における0.25%利上げ織り込み度は、円売り材料が主因だったとはいえ前営業日7日の71.15%から、72.2%へわずかに切り上がっただけだったこと(図表参照)。その後は、7割以下へ後退しています。
7日発表の3月米雇用統計で、非農業部門雇用者数が+23.6万人とほぼ予想通りの増加幅を実現し、失業率が3.5%と予想の3.6%より強い内容となったことで、過度な景気悪化への不安が後退。利上げ織り込みが6日時点の50%割れ水準から70%超えへ急速に回復して、織り込み余地がすでに縮まっていたという下地もありました。
とはいえ、利上げ織り込みに頭打ち感が生じるなかでは、ドル円も伸び悩みやすくなります。加えて、日銀が緩和縮小に現状は慎重であるものの、やがて緩和解除への布石が打たれ、「YCC・マイナス金利」の見直しに傾く時期もほどなく訪れるでしょう。
ドル円は、足もとの円安・ドル高傾向が鈍化するリスクを抱えた不安定な状態といえます。12日に発表となる注目度の高い米インフレ指標・3月消費者物価指数(CPI)が反転のきっかけになる可能性もあり注目となります。