32年ぶり円安下インフレ、単純計算で家計負担10万円増
為替は、32年ぶりの水準1ドル=152円目前まで円安となりました。通貨安による購買力低下が、多くの産品を輸入に頼るに日本の輸入物価を押し上げています。輸入物価上昇が大きく影響して、我々の家計に直接影響を与える消費者物価指数(CPI)の水準も引き上がりました。
直近9月分のCPIは、生活実感に近い総合指数で前年同月比3.0%の伸びとなっています。原指数は1年間で100.1から103.1に増加(表1)。消費100万円当たり3万円コストアップしたイメージです。
総務省家計調査(昨年9月時点)における勤労者世帯(人員 3.22人)の消費支出は295,779円。これを12カ月分に直すと3,549,348円。CPIが3%上昇したことによるコストアップをそのまま当てはめれば、年間106,480円の負担増になります。
主なシンクタンクの調整を交えた試算では、為替が1ドル=150円水準での推移が続けた場合の負担増は8-9万円ほどとされていますが、いずれにしろ円安による負担増をどうにか解消する手立てはないのでしょうか。不動産や株式への投資によるインフレヘッジが思い浮かびます。しかし、為替動向が大きな要因であるインフレなら、外貨取引が「インフレヘッジ」の有力な手段となりそうです。
「インフレヘッジ」の一手FX
これまで為替取引が一般投資家の「インフレヘッジ」手段として取り上げられにくかったのは、1949年(昭和24年)制定の「外国為替及び外国貿易管理法」による対外取引の規制により、為替を自由に売買できなかった時期が長らく続いたことが大きな要因でしょう。
銀行で外貨預金はできましたが、ドル円を取引するにしても、レートに往復2円分を上積みした差額(スプレッド)を手数料として支払わなければなりません。外貨建てMMF、そして近年ではインターネットバンキングも利用できることになり、スプレッド50銭で取引が可能になりました。しかし、それでも「インフレヘッジ」に必要な量を売買する場合の負担は大きくなります。
法改正を経て1998年(平成10年)から基本的に自由な為替取引が行われるようになると、外国為替証拠金取引(FX取引)がスタートしました。FX取引のスプレッドは数銭で、銀行間のインターバンク取引と比べて遜色のないレートで取引できるようになりました。「インフレッジ」を行うには十分なツールといえます。
FX「インフレヘッジ」例
前述の106,480円の負担増を、当該の月末におけるドル円レートの動き111.29円-144.74円→33.45円高(+30%)でヘッジするとしたら、
為替差益による単純計算ですが、
・106,480÷33.45=3183.27(ドル)
約3183ドル分の取引で賄えることになります。
証拠金10%なら、
・3183.27(ドル)×10%×当初レート111.29円=約35,427円
以上の証拠金を元手に「インフレヘッジ」取引を始めることになっていたでしょう。
※実際の証拠金や取引の規定は各社様々。損失次第で追加証拠金も必要。
全体の数%の証拠金を収めて大きな取引を手掛ける、いわゆるレバレッジの効いたFX取引は投機的な側面があり、これも普及後からこれまで投資商品として扱われにくかった要因といえます。半面、適切に全体の取引量をコントロールすれば、効率よく扱える「インフレヘッジ」手段となり得ます。
上記の例のようにジャストで「インフレヘッジ」をフルに履行できることは皆無でしょう。物価の低下局面で、為替差損が生じることを、保険料(ヘッジコスト)として受け入れる必要もあります。本邦政府・日銀のドル売り・円買い介入による荒っぽい相場展開を受け、物価コスト・為替差損がダブルでマイナスになるリスクもあります。
しかし、為替が明確に物価を押し上げていくような局面では、コスト増加の影響を半減させる程度の規模でよいので、スプレッドが小さく効率的なFX取引での対処も一考でしょう。投機的な利益を狙う以外の、賢いFX取引活用術の1つといえます。