年初「地震の影響」リスク回避の円買いではなく、日銀緩和継続観測の円売りに作用
年明け、日本が正月休みで本邦勢不在の2日アジアタイム、為替マーケットは1日に発生した能登半島地震の影響を見極める出だしとなりました。「地震の影響」としてまず警戒されたのは「阪神淡路大震災」や「東日本大震災」後のようなリスク回避の円買いでした。
「阪神淡路大震災」後は1ドル=79.75円、「東日本大震災」後は75.32円まで、それぞれ1973年変動相場制導入後の円高値を更新する動きとなりました。しかし今回の円買いは為替マーケットのスタート直後、昨年末のNY引けの水準141円付近から140.80円近辺までじり安が先行した程度でした(図表参照)。
むしろ、その後は円安が進行。能登半島地震を受けて、日銀が景気への影響を配慮して「早期にマイナス金利を解除することは困難になった」との見方が円売り要因になったとされています。
同週末5日、米労働省発表の12月米雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比+21.6万人と、11月より伸びが鈍化するとのマーケット予想+17.0万人に反する強い結果となり、失業率も3.7%と予想の3.8%より強かったことを受けたドル高も後押しとなりました。145.97円の円安・ドル高水準まで上振れています。
145円台での円売り・ドル買い方向の振れは、「地震の影響」で日銀が緩和解除へ動けないとの円売り要因に加えて、週末の米雇用統計を控えた前日4日に前哨戦といえる米雇用関連指標である12月ADP全米雇用報告や前週分の米新規失業保険申請件数が予想より強かったことで、145円に観測されたオプション(OP)を試す動きが先行した面もあったようです。米雇用統計をNYタイムに控えた5日の東京タイム時点ですでに仕掛け的な動きにより145円台を回復していました。
そこから145円OPが目先の支えとなり、さらに強い米雇用統計の追撃で先述した高値146円目前まで上伸。一気にやり過ぎた感もあったのか伸び悩んだものの、年初から続く140円台を割り込んでしまうような調整を恐れる展開になっておらず、十分に円安な水準の推移といってよいでしょう。
「異次元」緩和解除はデータ次第、足もとの米指標にも注目
ただ、植田体制の日銀が前体制・黒田日銀による「異次元」の金融緩和を解除するかどうかは賃金や物価の動向といったデータ次第であることに変わりありません。マイナス金利を含む異次元緩和継続に否定的と思われる植田現総裁が異次元緩和の解除に動く可能性は常に念頭に置いて臨むべきでしょう。
もっとも、植田総裁が望むのは「異次元」の緩和を解除することであり、賃金上昇をともなう物価安定支援に必要足りえる金融緩和まで無理やり解除してしまうことではないのです。植田総裁はマイナス金利を解除しても「ゼロ%近傍の政策金利水準維持とフォワードガイダンスで金融環境を必要な状態に保てると考えている」(ヘッジファンド・ストラテジスト)といいます。
・経済データへの「地震の影響」が許容範囲であるかないか判断
・「『異次元』の緩和解除」となっても緩和的環境が続くかどうか見定め
・日銀が緩和解除サイクルへ傾いた場合のペースと、先行して金融引き締めを行った米国ほか主要中銀の金融環境との格差の見極め
上記のような点を順次確認していくことになるでしょうか。
・「地震の影響」判断や、
・「『異次元』緩和解除」の有無や金融環境へのインパクト
は推し量りにくく不透明な部分があり、円相場は荒っぽく振れがちでしょう。
そうしたなかこれらを判断しきれず保留したまま、
・「日銀と海外中銀の金融環境」の行方を見定める場面も交錯することになります。
つまるところ米国をはじめ経済指標の日々の強弱にも一喜一憂する状況は続きそうです。その意味で直近では今週木曜日11日の「米消費者物価指数(CPI)」や週末12日の「米卸売物価指数(PPI)」の強弱に注目することになります。