145円迫るなか「レートチェック」
先週、日銀が為替マーケットで「レートチェック」を行ったとの報道が、円買い介入の警戒感が高めました。ただ、金融マーケット参加者は「レートチェック」が、ドル高・円安の流れ抑制に有効とは真剣に受け止めていないでしょう。
9月14日、ドル円相場は一時144.96円へ上昇しました(図表1)。その前週7日、144.99円をつけたのに続き1998年8月以来、24年ぶり以上となる145円乗せをうかがう状況となっていました。この局面で飛び込んできたのが、「日銀レートチェック」実施のニュースでした。
報道では、「レートチェック」とは「為替介入に備えて銀行やブローカーなどインターバンク・マーケット参加者に相場水準をヒアリングすること」と説明されています。しかし、日銀もインターバンク・マーケットで取引をするための代表的なプラットフォームEBS(Electronic Broking System)の端末を導入しています。電話で為替のレートを聞いて取引していた時代と異なり、同端末を利用して「レート」の「チェック」自体は常に行えます。
円安抑制の効果限定的か
あえて「日銀が為替水準をヒアリングしていますよ」との姿勢を示したのは、これまで口先介入を繰り返してきたにも関わらず、円安進行が止まりそうもないためでしょう。14日、神田財務官は「緊張感を持って監視し、あらゆるオプションを排除せずに適切な対応をしたい」と述べ、鈴木財務相も「過度な変動に憂慮している」「最近のような動きが継続する場合にはあらゆる措置を排除せず、必要な対応をとりたい」「あらゆる手段の中には為替介入も含まれる」と発言していました。
それでも円安加速の不安が拭えない状況に対して、もう一歩踏み込んだ措置として「レートチェック」を実施して、当局の円安進行に対する懸念をより明示したかったのでしょう。日経新聞はトップ扱いの速報で「日銀レートチェック」のニュースを伝えました。他の通信社も「レートチェック」について報じ、ドル円は142円台まで調整を進めました。鈴木財務相は「レートチェックの有無についてはコメントしない」としていましたが、内心ではアナウンスメント効果を高めるためにも「できるだけ大きく目立つように報じてくれ」と願っていたのではないでしょうか。
でも、アメリカは輸入物価の上昇によるインフレ悪化を招く通貨安を、日本以上に嫌気しています。米連邦準備理事会(FRB)のタカ派(金融引き締め・金利引き上げ)姿勢継続が強く意識されるなかでは、日銀の口先介入や「レートチェック」も効果は限定的です。さらに踏み込んで実弾介入(実際に為替の売買を行う介入)を行ってさえ、アメリカとの協調行動ではなく、日銀単独では有効性が乏しいというのがマーケット参加者の共通認識でしょう。
「日銀レートチェック」報道後、値幅の評価は様々でしょうが、為替は円高方向へ振れました。もっとも、「レートチェック」効果で押し戻されたというよりも、円売りを仕掛けていたマーケット参加者が、7日高値144.99円で利食えなかったポジションを、再び145円目前まで円安が進んだ局面でいったん軽くする意識を高めやすかった面が大きいでしょう。「レートチェック」報道は、調整範囲の円買い戻しを後押しする材料になった程度かもしれません。
限定的な値幅のなかで円買い戻しが進んだものの、その後ドル円は144円近辺へ反発するなど、円安トレンドの反転は確信できない状態です。潮目の変化には、財務省・日銀など本邦通貨当局が「断固たる」決意をもって、FRBと協調して為替市場で行動することが条件といえます。
とはいえ日米協調を期待できるムードではありません。アメリカのインフレが落ち着き、金融引き締め・利上げの手綱が緩むのを待つしかないでしょう。「レートチェック」のアナウンスメント効果だけで流れは変わらないと考えられます。