「ソフトデータ」は先行指標
市場は経済指標の強弱に一喜一憂して上下します。ここもと、特にユーロ圏の経済状況・株価動向、為替市場でユーロ相場の行方を見定める上で注視されるのが、購買担当者景気指数(PMI)など、景況関連指標の結果です。
これら景況指標のように関係者や消費者に、現状や先行き、これまでの状況などについて聞き取り調査した結果を数値化した経済指標を「ソフトデータ」と呼ばれます。状況の報告にとどまらず、個々がどう感じているかや今後の見通しといった、心理的な受け止め方を反映した調査結果も含まれます。
一方、小売売上や国内総生産(GDP)、物価指数や雇用統計など、経済活動の実績値が「ハードデータ」です。具体的な数字で客観的に集計時点の正確な状況を示す内容といえます。しかし「ハードデータ」は作成手順などにより遅行性が生じます。これは将来の期待値を反映する株式など、金融マーケットの売買に役立てるのに難しさもあります。
ハードデータのなかで、米国では月次の経済指標で雇用統計の注目度が高いのは、おおむね翌月の最初の金曜日発表(正式な日程決めルールは前月の12日を含む週の3週後の金曜日であるため、ずれる場合あり)であることからも、市場が速報性を重視していることがわかります。とはいえ、雇用統計は性質自体に遅行性があるため、集計後の発表が早くても「過去のデータ」とみなされる面があります。
「雇用統計」は景況が好転して企業が採用活動を活発化した結果
→雇用活発化の前提である企業業績好転は、消費活動の高まりを示す「小売売上高」などに表れる。
→消費活動が高まっていく兆候は、消費の裾野の広がりにつながる「住宅市場」の動向を示す指標や、企業が消費の強まりを見越して準備していることを示唆する「鉱工業生産」などに表れる。
上記の流れを念頭に、先行指標となる鉱工業生産指数なども注目されますが、翌月半ばに鉱工業生産が発表となる米国を除き、総じて他国の同指数の発表は2カ月先で、やはり遅行性が感じられます。そこで先々に対する企業の期待感や先々の見通しを早々に知ることができる景況関連指標といった「ソフトデータ」の強弱が、金融マーケットで注目を集めることになるのです。
注目を高める欧州「ソフトデータ」
米国のサプライマネジメント協会(ISM)製造業景気指数や、ミシガン大学調査による消費者態度指数もそうですが、ウクライナ情勢を受けたロシアの天然ガス供給停滞の悪影響にあえぐユーロ圏の「ソフトデータ」である景況関連指標への注目度が高まっています。
ユーロ圏のハードデータは集計されて公表されるようになった歴史が比較的浅いほか、主要国ドイツの指標が先行して発表されるため、発表時点では相応に織り込み済みでマーケットの動意のきっかけになりにくいところもあるようです。逆に、先行して発表となるドイツの指標結果だけでは、総じてぜい弱な南欧の状況を反映していないため、ユーロ圏全体の動向に影響される為替市場でのユーロ相場の先行きを判断しにくいと感じるマーケット参加者もいるようです。
そこで活用されやすいのが「ソフトデータ」です。代表的なのは購買担当者景気指数(PMI)。製造業とサービス部門のPMIと、双方を加味した総合PMIがあります。注目度が高いのは製造業PMIで、PMIのなかでも先行性がある数値とされています。製造業の状況改善・悪化が、次第にサービス部門へ波及するとの受け止め方のようです。
そのほか、ユーロ圏の主要国ドイツの情勢判断に関し、1970年から統計を開始し始めたIFO研究所集計の企業景況感指数があります。ユーロ圏のPMI速報値より数日遅く発表されることが多いのですが、1997年から統計を開始したPMIより古くから定評ある景況感を提供し続けており、信頼が厚いのです。
独IFO企業景況感についてはさらに、同指標の先行指標と位置付けられる独ZEW景況感指数(期待指数)が公表されていることも、セットでマーケット参加者のなじみやすさにつながっています。ちなみに8月16日発表の今月分は-54.9となりました(図表1)。7月の-51.1から、反動で多少改善するとの見る向きもありましたが、むしろマイナス幅を拡大。同指数の景況判断の分かれ目である0を大きく下回る悲観的な状況が続いています。
独ZEWにも先行指標とされる数値があります。センティックス(Sentix)投資家信頼感指数で、経済の先行きに対してより敏感とされる投資家に絞って、現況と先行きについて聞き取り調査した結果です。ただ、統計開始が2003年からと遅めで認知度も他の景況調査に比べて劣ることもありますし、マーケット全体から注目されているというよりは、アナリストなど景況の行方をかなり先行して予想することが必要な人々を中心に関心を集めている程度です。
欧州関連で直近では23日にユーロ圏や域内各国の8月製造業・サービス部門PMI・速報値が発表予定です。そしてやや遅れて25日、8月独IFO企業景況感指数の発表が控えています。