将来の物価動向を占う「期待インフレ率」
世界の金融マーケットの中心とされるアメリカ。そのアメリカで株式や為替の動向を左右する米金利を、ここもとで動かしている大きな要因は「期待インフレ率」でしょう。
「期待インフレ率」はマーケット(消費者や企業、投資家など)が予想している将来の物価水準です。ただし今後の見通しであり、正確な水準を特定できるたぐいの数字ではありません。推計の求め方がいくつかあります。
よく定義づけられるのは、固定利付国債(普通国債)と、物価連動国債の利回りの差から求める「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)」と呼ばれるものです。
下記の式で求められ、
BEI=(普通国債利回り)-(物価連動国債利回り)
8月2日NYタイム午後の米5年債のそれぞれの利回り水準を当てはめると
(2.865%)-(0.163%)=2.702%
5年先について、おおよそ2.7%ほどのインフレ上昇率を予想していると推計できます。
注目はミシガン大学調査のインフレ期待
しかし、これはマーケットの動向に働きかける材料というより、マーケットの動きから逆算した推計値です。いまマーケットで変動要因として注目を集めているのは、米ミシガン大学によるインフレ水準予想の聞き取り調査の内容です。
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は、6月14-15日の連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利の引き上げで、マーケットの大方の見通しであった0.50%を上回る0.75%の利上げを行いました。その際に重視したのが、その前週10日発表のミシガン大学調査による6月消費者態度指数・速報値とともに公表された5-10年先のインフレ予想です。同予想は3.3%となり、2008年以来の高水準へ上振れました(図表1)。
その後、6月24日に確報値で3.1%へ下方修正され、今年1月や2月、昨年5月にもつけた水準に結局とどまりました。7月分は速報値が2.8%、確報値はやや上方修正も2.9%。FRBの引き締めや足もとの物価の落ち着きが、インフレ抑制に効き始めてくるとの観測を反映する結果となりました。
これも一因に、7月26-27日のFOMCでは、一時盛り上がっていた1.00%利上げの見方が後退。0.75%の引き上げとなりました。さらに次回9月20-21日のFOMCでは、利上げ幅が0.50%に縮小するとの見方へ傾いています。
インフレ期待の落ち着きや利上げ幅の縮小予想を受け、米10年債利回りは6月につけたピーク3.5%目前から、2.5%付近まで低下。ドルは売られ、ドル円はいったん139円台へ持ち直す場面を挟みつつも、130円割れをうかがう水準へ下落しました。
一方で米株価はダウ平均が3万ドル割れから3万3000ドル手前まで水準を回復。金利低下で企業が活動資金を得られやすくなるとの見方や、市場参加者が株式市場に投資資金を投入しやすくなるとの見方を後押ししたようです。
「期待インフレ率」の動向を公表値で知ることができるミシガン大学の聞き取り調査の結果で、今後もマーケットは上下することになりそうです。次回8月分の調査結果は8月12日に速報値、26日に確報値が発表となる予定です。