長期金利上昇が米利上げ休止の一因
米長期金利低下でドルの上値が重く感じられる面があります。しかし金利上昇が米金融を引き締め状態にしていたことを一因に米連邦公開市場委員会(FOMC)が政策金利を据え置いていた状態が、金利低下により変化しつつあります。
「引き締め効果」が十分ではないと判断されれば再び米利上げ観測が浮上しかねません。すでに利下げ時期を探る動きに焦点を移行しているマーケットが巻き戻しを余儀なくされる展開に警戒が必要です。
米10年債利回りは10月23日に5.2%近辺と、約16年ぶりとなる高水準をつけていました(図表参照)。米金融引き締めの長期化観測が支援材料でした。
しかし、そこまでで頭打ち状態。ここ最近の4.3%台は長期的視点でいえばまだかなり高いレベルといえますが、足もとで低下ペースを強めつつある感があります。
米長期金利の上昇は米連邦準備理事会(FRB)の金融政策へ多分に影響を与えていました。アメリカの金融政策を話し合うFOMCの11月会合を控えるなか、ダラス連銀のローガン総裁は「長期金利の高止まりは、政策金利引き上げの必要性は減らすかもしれない」と述べていました。
同総裁は金融政策を決定する今年2023年の投票権を有するFOMCメンバーです。発言の強弱、タカ派(金融引き締め派)であるかハト派(金融緩和派)であるかにマーケットがより注目する人物の1人です。
年後半となり来年24年の金融政策姿勢にマーケットの意識が移行しつつもあるなか、2024年のFOMC投票メンバーであるリッチモンド連銀のバーキン総裁からも同時期に「長期金利が上昇していることで引き締め状況となっている」との声が聞かれました。
結局、現地11月1日結果発表のFOMCでは2会合連続での政策金利据え置きが決定されました。パウエルFRB議長は「(物価)2%目標への道のりは長い」「十分制限的なスタンス達成に尽力」としつつも、「金融状況は著しく逼迫」と、金利上昇による企業債務や家計への影響にも言及。「これまでの進展を考慮し、FOMCは慎重に進んでいる」「(利上げの)サイクル終盤に近づいている」などと発言しました。
発言のうちのハト派な部分が注目を集め、マーケットは「FRBがそれほど金融引き締めに前向きではない」との思惑が広がりました。ここまでの米金利水準の調整を誘う大きな要因となりました。
米金利低下が「引き締め効果」緩和、FRB高い政策金利維持の可能性
ただ、金利上昇の進展が景気へ悪影響を及ぼすリスクをけん制した部分はあったかもしれませんが、かつて「景気を犠牲にしても抑制する」とも述べたインフレへの警戒感が緩んだわけではありません。長期金利のインフレ抑制効果に言及していたダラス連銀のローガン総裁も11月FOMCを経た後、「政策金利据え置きは適切だった」としながらも「インフレは依然として高過ぎ」「インフレ率は依然として2%ではなく、3%に向かう傾向」と警戒感を示していました。
パウエル議長もFOMC後の会見でも述べていた「さらなる引き締めが適切になれば躊躇しない」との見解を、11月会合後もローガン総裁のインフレ警戒発言などと符牒を合わせるようなタイミングなど交え、改めて示しています。
22日のFOMC議事要旨(10月31日-11月1日分)公表で「当局者全員が金利について慎重に進めることに同意」との内容に並び、「インフレの進展が不十分な場合、FRBはさらなる引き締めを検討」「大半の当局者はインフレの上振れリスクを認識」との見解を改めて確認したマーケットの反応でドルが下げ渋る場面がありました。
2会合連続の米政策金利据え置きを受け、マーケットはすでに利下げ時期を探る動きを前のめりに進めているように感じられます。しかし、長期金利上昇による「引き締め効果」が政策金利据え置きを支援していた状態は、長期金利低下により後退しています。FRBが「引き締め状態が十分といえなくなってきた」と判断した際にマーケットが巻き戻しの動きを迫られ、米金利再上昇・ドル買いが強まるリスクも念頭に置いて臨む必要があります。