円安が再び進み始めていますが、日銀は米新政権の出方を見定めたうえで利上げ判断をする可能性があり、円売りの流れが止まりにくい状況ともいえます。タイミングよく金融政策の変更が実施できないリスクがあるなか、条件が整った場合の利上げをアナウンスしつつ、マーケットが先んじて意図せぬ流れを強めそうな局面で動きを抑えるような格好で「新政権の介入能力」が発揮される展開は想定できます。
円安再燃、「新政権の介入能力」発揮される注目
ドル円は今夏7月3日に161.95円と1986年以来、38年ぶりの高値を更新後に同10日も161.81円まで戻りを試し、9月16日には139.58円まで20円以上の調整安となったものの、先週は再び156円台まで戻してきました(図表参照)。円安再燃で、輸入物価の押し上げによるインフレ高進回避を意識した本邦通貨当局の円買い介入を警戒する声も聞かれ始めています。
ただ、石破政権が為替市場において実弾をともなう円安阻止の行動に踏み切るかどうか、為替介入に臨む姿勢「新政権の介入能力」を金融マーケット参加者はまだつかみきれていないようです。円安進行局面で新政権下の通貨当局が実際に介入へ動くか見定める状況にあります。
介入の行方を左右しそうなのが、やはり日本同様に新政権移行で誕生する第2期トランプ内閣の動向です。トランプ次期大統領は、ドル高が米製造業を窮地に陥れていると考えているため、円安を抑えるための円買い・ドル売りの動きに強く反対しないとみることもできます。
現バイデン政権下で先日公表された米財務省による外国為替報告書でも、日本円は引き続き監視対象とされつつも、今年に行った為替介入について「透明性を保っている」として一定の理解を示しており、「為替操作国」として制裁の対象とするような流れに向かってはいません。
ただ、十分な為替の動意抑制効果が得られるような協調行動をともなう介入は期待しにくいと考えられています。米次期政権下の財務省や連邦準備理事会(FRB)と、外交ベタとされる石破首相の下で対応を進めることになる本邦当局が連携を図るシナリオは成立しにくいとされています。
円安抑制に利上げ必要、介入がつなぎとなるか
そしてトランプ政権の拡張的な財政政策により米金利上昇・ドル高が先行しやすい状況も、無駄打ちとなりそうな日銀の円買い介入を躊躇(ちゅうちょ)させそうです。円安阻止を市場へより意識させるためには、本邦当局としては日銀が利上げ動く姿勢を示すことが必要でしょう。
ただ、外交ベタとされる石破氏が、かつてのトランプ・安倍政権のような緊密な関係を築くのは難しいとみられています。コミュニケーションが不十分ななか、日銀も国際協調が大切となる金融政策運営において、思ったように利上げできないのではないかとの見方があります。
日銀はまず来年のトランプ大統領就任以降の中国ほか日本・欧州など他の主要国も対象とした追加関税を含む政策の動向を注視することになそうです。金融政策の正常化・利上げを進めるとしても、それらの状況を踏まえた上で動くことになるでしょう。
ただ、仮に利上げへの道筋が見え始めてきても、為替の円安は日銀の会合スケジュールを都合よく待ってくれるわけではありません。緊急会合を開催して利上げへ動くにしても、為替操作を第1の狙いとするようなスケジュールで動くのは不都合な面もあります。
そうなると、利上げを踏まえた会合をスケジュールしつつも、利上げアナウンスによる円安抑制効果が不十分であったり、アメリガや中国など外部要因が作用したりで想定を超えて円安が急速に進んだところでは、安定性を得るつなぎ的な手段として為替介入が行われることは想定できそうです。
その上で為替の安定的な推移を裏付けるようなファンダメンタルズを整えるように日銀が利上げへ動き、為替水準や物価の落ち着きを図ることが想定できます。「新政権の介入能力」が適切に発揮されるには、円安抑制の周辺環境を支援する利上げとパッケージであることが必要と考えられ、意図する道筋から逸脱する流れを一時的に引き戻す手段として介入が行われるイメージでしょうか。