言葉からひも解くマーケット

第38回「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断

マーケットの不安を示す「VIX」

 

欧米金融機関の経営破綻や経営状況の悪化による不安で金融マーケットは上下に揺さぶられています。日々伝わる金融不安の関連報道へ神経質に反応する状態です。

 

個別のニュースがマーケットへどの程度の影響を与えるか、マーケット参加者も解釈が難しいところでしょう。総合的な判断には、「VIX」の動きが重要なヒントとなります。

 

恐怖指数と呼ばれる「VIX(ビックス)」は、アメリカのシカゴ・オプション取引所(CBOE)が、アメリカの主要株価指数「S&P500」を対象とするオプション取引のボラティリティ(株価変動率)を元に算出している指数ボラティリティ・インデックス(Volatility Index)のことです。

 

「VIX」は、7割方10-20%のレンジで上下しています。上昇が不安の高まりを意味します。30%台に入ると警戒領域、40%台になるとマーケットがパニック状態にあることを表すとされています。

 

 

金融不安と「VIX」の動向

 

金融不安は、3月8日のシルバーゲートキャピタルに続き、10日にはシリコンバレーバンク(SVB)と、米銀破綻が続いたことがきっかけとなりました。マーケットが休場中の週末12日にシグネチャーバンクも事業停止に陥ると、週明け13日に「VIX」は30.81%に跳ね上がり、警戒領域に突入しました(図表)。

 

 

 

14日には、米金融当局が預金全額保護や資金供給などの救済策を発表していたことを冷静に受け止めるムードも高まり始めました。投資家のリスク回避姿勢は、和らぎ「VIX」の動きも落ち着きかけました。

 

15日、経営状況が悪化していたスイス金融大手クレディ・スイス・グループ(CS)に関し、「筆頭株主サウジ・ナショナル・バンクが追加投資をする意向なし」と報じられると、金融不安が再燃。「VIX」が30近辺へ接近する状態となりました。

 

ただ、2008年にサブプライムローンを原因とした金融危機で得た教訓もあり、前述した米銀3行破綻後に預金流出で経営危機となっていた米地銀ファースト・リパブリック・バンクに対し、大手複数米銀が早急に大型の支援策を検討する手際の良さを示したことなどから、「VIX」も再び30を超える事態には至らず、比較的落ち着いていました。

 

「VIX」が不安定に上下する場面を挟みつつも、クレディ・スイスについて、同じくスイス金融大手のUBSが買収することで合意したほか、米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6中銀が米ドル資金供給の拡充で協調したことなども状況安定に寄与しました。

 

22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)も、金融不安を考慮したと考えられ政策金利の引き上げを0.25%にとどめ、一時0.50%の思惑が浮上していた大幅な利上げを回避。同日、イエレン米財務長官が「預金保険の適用範囲について、大幅な拡大は検討していない」と述べたことは不安を高めましたが、翌日には「正当化される場合、預金保護のために追加措置を講じる用意がある」と発言して火消しに回っています。

 

その後もドイツ銀行が抱える大きなデリバティブ取引のポジションが不安を高め、同行の株価が急落に見舞われて、「VIX」が高まりかける場面もありました。しかし、米地銀ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによるSVB買収合意などのニュースを受けた安心感が「VIX」の上昇を抑制しました。

 

28日には「VIX」も19%台と、通常モードのレンジ上限20を下回ってきました。金融不安の後退が株高や金利上昇など、マーケットのポジティブな反応につながっています。今後も金融市場が落ち着いていくのか、懸念が再燃することはないのか、それを反映した「VIX」の上下をにらみつつ、先行きを予測していくことになるでしょう。

この連載の一覧
第122回「Xリスク再発」為替・日本株はトランプトレード巻き戻し
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
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第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
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第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
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第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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