リスクセンチメントの先行指標「KBW地方銀行株指数」
米地銀発の金融システム不安が、マーケットのリスクセンチメントを左右する展開が足もとで目立ちます。この流れを読み解く上で、米中小金融機関株で構成される「KBW地方銀行株指数」の動向に注目が集まっています。
米現地5月2日、公的管理下に置かれ民間セクターによる救済を模索していた米地銀ファースト・リパブリック・バンクが、結局バランスシートを穴埋めできず緊急入札に掛けられたと報じられました。JPモルガンが落札・買収。これに対して「KBW地方銀行株指数」は前日じり安で引けた水準87ポイント台から、81ポイト付近まで急落とネガティブに反応しました(図表参照)。
同指数は自律反発で85ポイント台へ戻す場面もありました。しかし3日の株取引終了後、「地銀パックウエスト・バンコープは売却を含めて戦略的選択肢を検討」と伝わると、時間外取引で米株価指数先物は一段安。「KBW地方銀行株指数」は翌4日、75.75ポイントまで2020年11月以来の安値を更新しました。
ダウ平均も3月末以来の33000ドル割れとなりました。日経平均株価はゴールデンウィーク中に米株がやや持ち直したことが下落幅を限定しました。それでも休暇入り前の引け値29100円台から、休暇明けには28900円台まで売りが先行しています。
米地銀を取り巻く状況を懸念したリスク回避は株安だけでなく、米金利低下やドル安を招きました。米10年債利回りは5月初めに戻していた水準3.6%付近から3.3%割れ、同2年債利回りは4.1%付近から3.65%台へ下振れ。ドル円は137円台から一時133円台まで下落しています。
「KBW地方銀行株指数」いち早くヒント得たいマーケット参加者ニーズに合致
「KBW地方銀行株指数」は、創始者3名の姓を名称に冠した米調査会社Keefe,Bruyette&Woods(KBW)が算出・公表する地方銀行や日本の信用金庫・信用組合にあたる貯蓄組合など中小金融機関の株価動向を示す指数です。1960年代創業のKBWは、当時は貸借対照表や収益報告書を明示していなかった財務基盤が主要銀行ほどしっかりしていない中小金融機関の調査を専門に取り扱っています。
KBWは、主要銀行も含めた銀行の株価指数も公表しています。しかし、経営不安が高まった中小金融機関からの資金シフトの恩恵で預かりが急増することもあるより盤石な主要銀行の動向も含めた株価指数よりも、中小金融機関発の危機をいち早く察知するための炭鉱のカナリヤのような役割として、「KBW地方銀行株指数」が注目度を高めています。
インフレ指標においても昨今は重要視される消費者物価指数(CPI)や個人消費価格指数(PCEデフレーター)以外に、先々のインフレ動向への期待感を示す調査内容の動向が先行指標として注目を集めています。雇用指標でも、最注目の米雇用統計のほか、実際の雇用に先掛け変化し始める求人動向(雇用動態調査・JOLTS求人件数)への関心が高まっています。
リスクセンチメントを左右する株式市場の強弱。その株価の行方を現状で左右しやすい地銀株の動向を示す「KBW地方銀行株指数」が、より先行的なヒントを探るマーケット参加者の注目を集める状況がしばらく続くかもしれません。