ムーディーズの「米国債格下げ」で主要格付け会社の最上級格付けをすべた失った米国債。安全資産ではなくなったとみなされ、機関投資家が保有比率を下げるために売らなければならない対象となりました。米トリプル安につながり、その影響を本邦投資家も強く意識して臨まなければなりません。
「米国債格下げ」で米債売り(金利上昇)
先週末の米現地16日、NYマーケット終盤に格付け会社ムーディーズが米信用格付けを最上級の「AAA」から1段階引き下げ「AA1」とすることを発表しました。すでに最上位から格付けを引き下げているS&P(スタンダード&プアーズ)やフィッチ・レーティングスと合わせ、主要格付け会社3社すべてにおいて、米国債が最上級格付けを失ったことになります。
米国債は投資分野で最も安全な資産の1つと位置づけられてきました。S&Pとフィッチ2社が先行して格下げした局面でも金融マーケットの反応は一時的で、大きな動揺にはつながっていませんでしたが、主要3社すべてにおいて最上級格付けを失うことになった今回の「米国債格下げ」は、米国債を取り巻く環境も相まって見過ごすことのできない事態と受け止められています。
ムーディーズの格下げ発表前、週末のNY終盤に差し掛かっていたマーケットで米長期国債の指標とされる10年債の利回りは4.4%付近と同日それまでの上限付近ではあったものの動きを落ち着かせつつありました。しかし発表直後は債券売り(金利は上昇)が強まり、4.48%台で週の取引を終えています。
週明けはさらに債券売りが進んで4.56%台と、中国による米国債売りへの懸念を背景に4月11日に4.58%台まで上昇した局面以来の高水準となりました(図表参照)。20日にはいったん4.42%台へと調整が入ったものの、売り(金利上昇)地合いが途切れた感はありません。
主要格付け会社の最上級格付けをすべて失った国債は、各国の年金ほか大きな運用を手掛ける機関投資家の運用対象として安全資産と見なされなくなります。保有比率の引き下げが余儀なくされ、売らなければならない対象となってしまうといった事情もあります。
「米国債格下げ」悪い金利上昇でドル買われても一時的
今回の米格下げはトランプ政権の減税や経済対策の財源として発行される米国債による財政赤字の拡大と、その返済能力に対する懐疑的な見方が背景となっています。歳入が横ばいにとどまる見込みのなか、社会保障ほか支出の増加を相殺できる水準ではないと判断されています。
為替相場は「米国債格下げ」による金利上昇に対して機械的にドル高で反応する場面もありえます。しかし、いわゆる「悪い金利上昇」に追随したドル買いには見直しの売りが入りやすいものです。高値掴みで不利なポジションを構築してしまいがちになりやすいとみます。
経済的な強さの裏付けを欠く今回のような金利上昇は株価にとっても圧迫要因となります。金利上昇を織り込み切れずに重しとなって、戻り歩調を取り戻しつつあった米株式市場の調整リスクを高める材料となります。
株価の動きが重くなれば、リスクセントメントの悪化を嫌気した円買いも誘われそうです。足もとで本邦長期金利も上昇しやすくなっており、ドル円は上値が重いドルと、これまで抑え込まれてきた本邦金利の上昇を受けてドル安・円高方向へ傾きやすいでしょう。
米債券安・株安・ドル安といった米トリプル安となりやすい状況のなか、本邦投資家はドル円相場の円高推移と、米株安や円高と相まった日経平均株価など本邦株式の下落を受けたリスク回避的な展開を警戒して臨む必要があるでしょう。トランプ関税の影響が出始める米経済の実体を示す指標であるハードデータの4月分も弱まりが予想され、米資産市場を押し下げる方向に働きそうな点にも注意が必要となります。