カナダ総選挙は当初不利とされていた与党が「反トランプ」色を打ち出して苦境を覆して勝利しました。5月3日の豪総選挙も「反トランプ」の展開となるか注目されます。ポピュリズムの流れを巻き戻すきっかけになるとの思惑が、金融マーケットの圧力を緩和することが期待できます。
「反トランプ」カナダ総選挙の選択
米トランプ政権による中国をはじめ各国への高額な追加関税賦課の動きは一時停止の状態にあります。高付加の関税がマーケットにショックを与え、アメリカの債券安・株安・ドル安という米トリプル安に陥った状況に対して、投資家・ヘッジファンドマネージャーの経歴を持つマーケット通のベッセント財務長官がトランプ大統領に苦言を呈したとの噂も伝わっています。
関税賦課に関する姿勢軟化を好感して、米中貿易戦争が落としどころのない最悪の結果に陥る事態は回避できるとの期待感が高まっています。まだ予断を許さない状態ですが、株価急落で資金流出が懸念されていた米株市場では、ダウ平均がダブルボトムを思わせるような格好で下げ渋り、下落幅を縮小する動きになっています(図表1)。
米債券売りにともなうドル安を懸念する声が事前に多く聞かれましたが、実際はアメリカ株の急落による資金流出がドル相場にも強く響いていたようです。ダウ平均が2番底を打つようなタイミングで、対主要通貨でのドル相場に下げ渋りが散見され、総合的なドル相場の強弱を示すドルインデックスにも下げ渋りの兆候が感じられます(図表2)。
その他に注目したいのが、2期目の米大統領就任後に猛威を奮っていたトランプ旋風ともいえる関税ほかやりたい放題ともいえる政策実行や、強硬な外交に抗うような「反トランプ」ともいえる動きが各国で目立し始めてきた点です。
足もとでは4月28日実施のカナダ総選挙で、当初は不利とされていたカーニー首相率いる与党・自由党が定数343のところ改選前の154から169に議席を伸ばし、4期目の保守党政権継続を確実にしました。「反トランプ」を掲げた同党の姿勢を国民が評価し、巻き返した格好です。
カナダ保守党は「アメリカの51番目の州になるべき」などと発言したトランプ氏のいわゆるカナダ併合論に対して強硬的な態度を示しています。高関税賦課に対しても報復関税で対抗して屈しない姿が支持を集めたといいます。
豪総選挙も「反トランプ」色が出るか
続いて注目されるのが5月3日の豪総選挙でも「反トランプ」色が示されるかどうかです。当初は優勢とされていた野党・保守連合(自由党・国民党)は、トランプ氏と政治的な思想が似通っているとされ、オーストラリアも含めて対外的に強硬なトランプ氏への反感が、ここへきて足かせになってきたようです。
接戦と報じられていますが、アルバニージー首相の率いる中道左派・労働党の有利を伝える世論調査が増えつつあります。「反トランプ」支持、トランプ氏的な政治思想への嫌気だけでなく、ダットン自由党党首がオーストラリアで催される各種行事の冒頭で先住民に敬意示す言葉を述べる慣例に苦言を呈するような発言をしたことも、先住民に関連する団体などからの反発を買って選挙戦を不利に傾けたとの指摘もあります。
いずれの要因であれカナダに続き、オーストラリアといった主要国で「反トランプ」と目される政権が勝利することになれば、一時盛り上がったポピュリズム(大衆迎合主義)政党躍進がマーケットに圧力を加えていた流れが巻き戻されるきっかけになるとの思惑を高めそうです。実のところそれほど単純な話ではないのですが、トランプ政権の政策による関税ショックがマーケットに加えた圧力の緩和に一役を買うことにはなりそうです。
為替的にはカナダの選挙結果も現時点ではカナダドルへの局所的な影響に限られている感がありますし、豪総選挙の影響も豪ドルの振れ程度にとどまる可能性があります。しかし短期的な為替への影響だけでなく、「反トランプ」的な動きがトランプ的政治思想を連想させるポピュリズムの流れを巻き戻すムーブメントのきっかけなるとの見方につながれば、関税ショックで傷んだ金融マーケットとのほころびを補う方向に働くことが期待できます。