言葉からひも解くマーケット

第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下

日銀総裁「ハト派→タカ派転身」円高進行

 

これまで基本的に「ハト派」(金融緩和派)と思わせる発言をしていた植田日銀総裁の「タカ派」(金融引き締め派)的な見解、「タカ派」とされていた内田副総裁の「ハト派」的発言、「ハト派←→タカ転身」が円相場や株式市場の乱高下を誘っています。長期視点なら地道な対応継続を心掛けるべきだったり、短期狙いの投機的な仕掛けが難しいことを意識したりしつつ臨む局面といえるでしょうか。

 

先月末30-31日開催の日銀金融政策決定会合では、記者会見で植田総裁が前回2006年から2007年の利上げ局面で天井となった0.50%について、「特に意識していない」と述べたことが材料視されました。それまで拙速な利上げに慎重な「ハト派」な発言が目立った植田総裁が「タカ派」に転身したとして、同水準が壁にならず追加利上げが進んでいくとの思惑から円買いが進みました。

 

ドル円は、会合の結果発表前日からNHKが「日銀は明日まで開く金融政策決定会合で現在0-0.1%の政策金利を0.25%程度に引き上げる案などを議論」、日経新聞が「日銀は追加利上げを検討、国債買い入れを減額する量的引き締めの具体策も決める」などと報道していたことを受けて155円付近から円買いが進み始め、追加利上げに際しては152円割れへ下押しています。13時前に利上げ決定の事実確認後はその流れを次第に落ち着かせ、154円回復をうかがう場面もありました。

 

 

 

しかし15時30分から会見が始まり、前述の植田総裁の金利引き上げ限度に関する発言を受けると円買いが再び進行。後日の弱い米雇用統計ほか景気後退懸念を高める米経済指標を背景としたドル売りも相まって、今週5日には142円割れまでドル売り・円買いが進んでいます。

 

 

副総裁「タカ派→ハト派転身」巻き戻しの円売りに

 

ただ、足もとで潮目を変えるような発言が飛び出してきました。7日午前、日銀が主催した北海道・函館における講演で従来「タカ派」とされる内田日銀副総裁の「金融市場が不安定な状況では利上げをすることはない」との発言が、「ハト派」的と受け止められ巻き戻しの円売りが入り、ドル円は反発を強めました。

 

ドル円は週初5日の円高の勢いを多少落ち着かせ、145円を挟んで上下していました。しかし内田副総裁の発言を受け、148円手前まで急速に円売りを進めています。

 

内田副総裁は講演内容で、金融緩和の度合い調整について述べた際、「ここ1週間弱の株価・為替相場の大幅な変動が影響」することを指摘していました。想定以上の変動を目の当たりにして、慎重にならざるを得なかったといったところでしょうか。

 

一連の急速な円高から、やはりやや急だといえる円安方向への巻き戻しには、人工知能(AI)を駆使した対応・アルゴリズムによる売買が背景となっているとの見方もあります。日銀会合後の植田総裁による「タカ派」への転身とも受け止められた発言、続いて7日講演での内田副総裁の「ハト派」的な発言を解析した自動売買が動きを加速させたとの指摘です。

 

直近の地合いに引きずられず「ハト派←→タカ派転身」に対して感情なく硬直的に売買を行うAI、その流れに翻弄され追随するマーケット参加者が値動きをさらに押し進める展開がしばらく続くかもしれません。日銀の「タカ派」や「ハト派」姿勢を示唆する文言、「ハト派←→タカ派転身」が推察されるキーワードを織り込んだアルゴリズム売買に右往左往する荒っぽいマーケットを想定して臨むことになるでしょうか。

 

長期スパンの取引であれば余裕資金を前提に目先の乱高下に惑わされず、時間的分散を心掛けた地道な投資を継続することが得策と考えられます。短期的に収益を狙いにいくスタイルであれば、確信が持ちにくく見定めが難しい場面では「休むも相場」で、高値を掴んだり、安値を売り込んだりを避けることが大切でしょう。

この連載の一覧
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
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第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
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第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
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第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
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第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
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第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
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第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
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第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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