言葉からひも解くマーケット

第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?

日本「監視リスト」入り、当局者は問題ないというが、

 

日本が米国の為替「監視リスト」対象に追加されたことで、本邦当局が円買い介入を行いづらくなったとの見方があります。鍵は日米当局のコミュニケーションにあると考えられますが、諸条件をクリアして、目安とされるドル円の161円や164円台といったところで介入に踏み切れるのか注目の局面といえます。

 

米財務省は20日に発表した外国為替報告書で、日本を為替の慣行に関する「監視リスト(Monitoring List)」に追加しました。「監視リスト」に追加したことが伝わると、「政府・日銀による為替介入はより困難になった」との見方から円売り・ドル買いが出やすくなった面もあり、ドル円の上昇が進んでいます(図表参照)。

 

 

 

米為替報告書による日本の監視リスト入りについて神田財務官が「何か問題があるとは捉えていない」「過度な変動があれば適切に対応する方針は変わらない」と発言したことでドル円がやや下押す場面もありましたが下値は限定的でした。林官房長官からも「米為替報告書の監視対象指定、日本の為替政策を問題視していると意味するものではないと理解」「政府は引き続き為替市場の動向をしっかり注視し万全の対応」などの発言が聞かれました。

 

ただ、イエレン米財務長官が、この局面の4月29日と5月1日(日本時間2日未明)に行われた為替介入後、「為替介入はまれな行為であるべき、他国への伝達必要」など複数回にわたって、本邦当局のドル売り介入への不快感を示していた経緯に加え、重ねて「監視リスト」入りとなったことで、介入実施がこれまで以上に難しくなったといえそうです。

 

 

目安の161円付近や164円台で介入に踏み切れるか

 

日本が「監視リスト」に入れられた理由としては判断基準3つのうち

1. 財の対米貿易黒字:150億ドル以上

※2023年の日本の対米貿易黒字 約624億ドル

2. 経常黒字額:対国内総生産(GDP)比3%以上

上記に触れたことがあげられます。

 

ちなみにもう1つの条件、

3. 過去12カ月の外貨購入(介入):対GDP比2%以上

これに関しては2022年と2024年のドル売り・円買い介入は抵触していません。この条項には過去12カ月のうち8カ月以上」という継続条件もあるため、日本がここまでのような10兆円規模で介入を持続しなければ触れることにならないでしょう。

 

日本がよりどころとしているのは、為替報告書の主な目的である、競争上の優位性を得るために自国通貨レートを人為的に押し下げること、すなわち通貨安にして貿易を優位に行うために介入を行っていないことです。神田財務官は「米国の為替リストは機械的基準に照らして評価」した結果、つまり判断基準3つのうち、2つに触れたため自動的にリストアップされたにすぎないとしています。

 

ただ、貿易相手国のアメリカへの伝達を怠って介入に踏み切ったとされるなか、4月29日や5月1日のように日本が介入を実施できるのかどうか確信が持ちにくい状況です。日米当局のコミュニケーションが大きな課題になります。

 

介入に関して、神田財務官は「「特定の相場水準は考えていない」としていますが、金融マーケットではボラティリティーの上昇を示すボリンジャー・バンド+2σの161.04円、「神田ライン」(過去28日間の安値から10円上昇)とされる164.55円(154.55円+10円)などがあげられています。

 

果たしてこれらの目安に達したところで、当局どうしのコミュニケーションを潤滑に行い、円買い介入を実施できるのか注目することになります。

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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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