米輸入関税に関する「大統領令」はトランプ氏の就任式当日には発令されずドルの上値を重くする一因になりました。しかし、やがて「大統領令」が発令され関税引き上げへ向かうことを想定しておくべきでしょう。もっとも、関税導入を受けて米金利上昇・ドル高が先行しても、先行きで巻き戻し要因が生じる可能性があります。報道や発言による揺り戻しで上下しやすい荒っぽい相場展開を念頭に臨むべきでしょう。
関税導入の「大統領令」見送りでドル調整気味
米現地20日の大統領就任式を控えるなか、米大手メディアCNNが事情に通じた筋の話として、広範にわたる一律の輸入関税導入を可能にする「緊急事態宣言」発令を検討していると8日に伝えました。それ以前6日にも米有力紙ワシントンポストが「トランプ次期大統領は重要な品目だけに絞って関税を課すことを検討」と報じ、米インフレ圧力が限定されるとの見方から米長期金利低下・ドル売りが先行するも、トランプ氏が否定してドルが買い戻されるなどの混乱がありました。
関税導入観測を中心に様々な報道が交錯するなか大統領就任式を迎えましたが、就任初日は関税に関する大統領令発令を見送っています。就任直前、米有力経済紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)でも「就任初日の関税導入表明は見送りへ」との内容を報じていました。
ドル円相場はそれ以前から米消費者物価指数(CPI)コア指数の落ち着きなどにより、158円付近の高止まりレンジから調整安の動きを強めていたところで、早々の関税導入が見送られたことも圧迫要因となり、156円付近の戻りを鈍らせました。事前に懸念を強めていたほどトランプ政権が関税導入を拙速に進めないとの思惑も生じたようで、155円割れを試す場面もありました(図表参照)。
一方で米国内のエネルギー生産促進といった国家エネルギー問題や、犯罪者の強制送還強化のためメキシコとの境界付近に軍を派遣するといった国境問題に関する「大統領令」は早々に発令されました。事前公約の実現へ向け、積極的な姿勢を示しています。
就任時には見送った関税に関する「大統領令」についても、「一律関税を課すための法整備が整い次第、『大統領令』発令へ」(シンクタンク系エコノミスト)ともいわれています。通商関連の高官が議会で承認され次第、行動が活発化するとの見方があります。
就任初日の関税導入見送りを予想していたWSJ紙も、カナダ・メキシコを対象とした2月からの課税を目指す方針を伝えています。こうした流れが主要な関税対象国になると考えられる中国の通貨・人民元も重くし、対人民元でのドル買い戻しにつながりドルを下支えする場面も足もとで散見されました。
巻き戻し要因も生じやすく荒っぽく振れがちか
ただ、関税導入によるインフレ圧力を受けた米金利上昇・ドル買いや、人民元売りに呼応したドル買い戻しが進むかどうか、先行きは不透明です。「年央程度をめどに、米金利高止まりの影響がどのように出てくるか見定める必要がある」(シンクタンク系ストラテジスト)との声も聞かれます。
ドル円でいえば、まずは「日銀が0.50%利上げ、米政策金利がFRB(米連邦準備理事会)の見通しに沿った水準なら0.50%利下げ、長期債の感応度が鈍いと想定しても0.50%は日米長期金利差が縮小するなら、経験値的に8円程度はドル売り・円買いが進む」(同)との予想もあります。加えて、米長期債利回りが米政策金利誘導目標ほど落ち込まなければ、金利高止まりが経済や株式市場重しとなり、リスク回避的な動きを誘うことも考えられます。
関税導入の「大統領令」で米金利上昇・ドル高が先行しても、やがて巻き戻し要因が生じるような流れが想定できる状態です。関連報道やトランプ氏の発言で急な揺り戻しも入る、変動率の高い展開が予想されます。