注目高めるエネルギー相場「天然ガス」先物
欧州経済の行方や欧州の株式・為替マーケットの先行きを占う上で、「天然ガス」価格の動向が注目されています。欧州の状況に最も影響を及ぼすのは、オランダのTTF天然ガス先物の価格です。
これまで長らくマーケット参加者の注目を集めてきたエネルギー相場は、NYマータイル取引所(商業取引所、NYMEX)で売買されるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物でしょう。ドライブシーズンの需給動向などを反映する石油製品価格として、ガソリン価格の動きが注視される局面もあります。
しかし、ここ最近は特に欧州の経済・マーケット状況を見極めるため目が離せないのが、「天然ガス」先物の動きです。代表的なTTF天然ガス先物は、欧州域内の天然ガス産業反映の核となったオランダのパイプライン網を仮想的な集積地と定め、天然ガス所有権が移転する地点Title Transfer Facility=所有権移転施設における天然ガスの指標水準を値決めする取引です。
ちなみにオランダは北部フローニンゲン(Groningen)州に1959年発見の欧州最大かつ世界最大規模となる天然ガス田を抱える国です。しかし、10年ほど前にガス採掘に関連した地震が同地域の安全を脅かすとして生産を大幅に縮小。政府は今年中にも採掘を停止する方針を示していました。
この流れに逆行して、ロシアは欧州向け天然ガスのシェアを大きく伸ばし、EU域内における輸入の5割に近づきつつありました。ただ、ウクライナ情勢の悪化によるロシアからの供給停滞を受け、ガス採掘に反対していたフローニンゲン州住民の多数がウクライナ情勢への対応としてガス増産を認めてもいいとの見解に鞍替え。国民の4割弱も増産に前向きとの調査結果もあります。
欧州経済・マーケットを圧迫する「天然ガス」価格の上昇
猛暑となった今夏の発電向け天然ガスの価格は、シェアを高めたロシア産天然ガスの一部供給停止により急騰しました。TTF先物の価格単位は、1時間に1メガ(100万)ワット発電できる天然ガス量あたりの価格となります。8月26日には1メガワット時(MWh)=330ユーロまで上昇しました(図表1)。ユーロ圏の深刻なエネルギー危機が警戒される中、エネルギー価格を含む物価上昇が域内景気の減速を加速させるとの懸念を強めました。
このTTF先物が高値をつけた局面で、欧州株は売られ、独フランクフルト株式市場の代表的な株価指数DAXは前営業日終値比300.49ポイント安の12971.47と7月19日以来の安値となりました。ユーロドルは「複数の欧州中央銀行(ECB)当局者は9月8日の定例理事会で、通常の3倍に当たる0.75%の利上げについて議論したい意向」との観測報道をきっかけに、一時1.0090ドルまで上昇していましたが、ガス価格上昇を嫌気して0.9950ドル台へ押し返されてしまいました。
一方、8月30日にTTF先物が調整安で245.5ユーロへ急反落すると、ユーロ圏景気の減速懸念が和らぐとの期待から独株は反発。ユーロドルは一時1.0055ドルまで買い戻されました。このように、TTF先物はユーロ圏の金融マーケットを左右。さらに対ユーロのドル相場の振れが、ドル円などドル絡みの他の通貨ペアの動きに影響する場面も目立ちます。
31日に再びTTF先物が上昇したことに独株が反落、ユーロは売り先行の反応を示すなど、天然ガス相場の動きに神経質な状態が続いています。同じエネルギー価格でも、リスクオン・オフの1つのバロメーターになっている原油価格の上昇に連れて株価が押し上げられたり、産油国通貨の上昇に連動してユーロが買われたりします。しかし、天然ガス価格は欧州マーケットに総じて逆の影響を与えています。NYオープン前のマーケットを荒っぽくしやすいため、注意が必要でしょう。