言葉からひも解くマーケット

第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に

衆議院選挙は「与党過半数割れ」となり、自民・公明両党は政権維持のため野党と協力関係を築いて乗り切らざるをえません。野党の協力を引き寄せる妥協のためには日銀の利上げが足かせになりそうです。利上げしにくい状況下では円安に傾きやすいでしょう。

 

「与党過半数割れ」野党と連携必須で利上げしにくい

 

10月27日投開票の衆院選は

・自民党 191議席(-56議席)

・公明党 24議席(-8議席)

―合計215議席確保にとどまり、

与党は定数465議席の過半数233議席に及ばない敗北となりました。

 

一方、野党は

・立憲民主党 148議席(+50議席)

・国民民主党 28議席(+21議席)

といった政党が、自民党の裏金問題に嫌気が差した有権者の主な受け皿となり躍進しました。

 

自公だけで政権を成立させることができない状態で、石破総理の退陣論も浮上していますが、野党との交渉に長けている森山幹事長に対して「辞めたら困る」と述べていたとされているところからも、何らかの協力や妥協を模索しつつ、退陣を避けて続投する姿勢のようです。

 

政治の内情は専門外ですが、本来なら選挙結果の責任を取って森山幹事長辞任の話も上がっておかしくないところで、小泉進次郎選挙対策委員長の辞任で一応の決着をつけており、選挙での対立構造を経て手のひら返しで連立を組むのは難しいものの、野党と政策ごとの部分的連携などを含め協力関係を築き、どうにか石破政権を存続しようとしているのが現状のようです。

 

その場合の金融政策への影響ですが、政権奪取を命題としている立憲民主党との協力は考えにくいため鍵となるのが、玉木代表も「幹事長レベルで接触があった」と述べている国民民主党との関係です。同党が標榜している「給料・年金が上がる経済実現」には、日銀の利上げは一時休止状態に持ち込まれる可能性が高いといえます。

 

物価抑制のための円安阻止を意識した利上げは、弱体化した石破政権下では難しそうです。石破首相自体も就任後「現在は追加利上げをするような環境にはない」とすでに述べてもいますが。

 

 

高市政権へ移行するにしても円売られやすい

 

石破政権の存続が難しくなった場合のシナリオも視野に入れておかなければなりません。この場合は自民党党首選で対決した高市氏を新たなトップとする政権樹立を模索することになるでしょう。自民党総裁選前から「いま利上げするのはアホ」と述べた高市氏の下でも日銀の利上げのハードルは高いと考えられます。

 

いずれにせよ、「与党過半数割れ」を招いた今回の石破自民大敗により、日銀の利上げが難しくなり、円安が進みやすくなっています。高市氏をトップとした政権交代へ向かうにしても利上げに傾きにくく円が売られやすいと考えるべきでしょう。

 

この状況を踏まえ、足もとでは1ドル=153円台まで円安が進んでいます(図表参照)。日銀が利上げしにくいとの見方に加え、米大統領選でトランプ氏有利に傾いており、大幅な財政拡張がドル買い先行につながるとの思惑も後押しになっています。

 

 

 

弱体化した石破政権が存続するにせよ、仮に高市政権へ移行していくにせよ、「与党過半数割れ」となった現状から先に待っているのは、円安が進みやすい状態と考えて為替マーケットへ臨むことになります。

この連載の一覧
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
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第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
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第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
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第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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