米連邦準備理事会(FRB)は「デュアルマンデート(2大責務)」のリスクウェイトをインフレから雇用へシフトしつつあるようです。こうしたなか今週末の米雇用統計の結果が米利下げや、利下げ幅拡大の観測を強める結果となるかどうか注目となります。
FRBはインフレ抑制より雇用鈍化のリスクより重視へ
FRBは7月30-31日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)声明で「『デュアルマンデート』の両サイドに対するリスクに注意を払っている」と述べました。FOMC後の会見でパウエルFRB議長も「両サイドのリスクを注視」することに言及していました。
その前6月11-12日開催のFOMC声明は「引き続きインフレリスクに細心の注意を払っている」と、インフレ対応にウェイトを置いた文言となっていました。パウエル議長の会見での発言も「インフレリスクを引き続き大いに注視」と、リスクバランスについて声明に沿った内容でした。
7月FOMC会見でパウエル議長からは「FOMCは利下げに近づいているという感触を得ている」「9月FOMCで利下げが選択肢になる可能性ある」といったかなりハト派(金融緩和派)的な言葉も聞かれました。「労働市場が軟化しているため、インフレの上振れリスクは減少している」との見解も示されていました。
8月21日公表のFOMC議事要旨も「大多数の当局者は9月の利下げは適切とみている」「数人の当局者が7月会合で利下げの論拠を指摘」と、利下げへ傾斜していることを匂わす内容でした。「雇用に対する下振れリスクは増大しているとみられている」との考えが背景にあったようです。
その後も8月23日には、カンザスシティ連銀主催による年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)でパウエル議長は「政策を調整する時が来た(The time has come for policy to adjust)」とかなり踏み込んだハト派姿勢を示しました。「労働市場についてはこれ以上の冷え込みを求めも望みもしない」「インフレの上昇リスクは減少し、雇用の下落リスクは増加している」と、インフレから雇用へのシフトを感じさせました。
利下げ観測が高まるか米雇用統計に注目
実際にFOMCがインフレ指標として重視する個人消費支出価格指(PCEデフレーター)コアは2022年のピーク+5.6%から足もとでは2.6%と、FRBのインフレ目標2%に接近してします(図表1)。ジャクソンホールでのパウエル議長による「今やインフレは目標にかなり近づいている」との言葉を裏付ける推移といえるでしょう。
一方で雇用の伸びは鈍化傾向です。直近7月分の非農業部門雇用者数の伸びは11.4万人にとどまっています(図表2)。注目の8月分は今週末6日に発表となります。マーケットでは16.5万人程度へやや盛り返すと予想されていますが、十分な回復とはいえません。
加えて米労働省による年次改定で、2023年4月から2024年の雇用の伸びが、従来の290万人増から208.2万人増へと、81.8万人も下方修正されました。堅調とされていた雇用が実は3割ほど多く見積もられていた格好です。
インフレ抑制のために行ったそれまでの利上げが効いて、雇用が思っていたより圧迫されていたことがうかがえる内容です。「デュアルマンデート」のリスクウェイトシフトが指摘されるなか、週末の米雇用統計がFRBの利下げ開始、さらに大幅な利下げの観測を高める結果となるかマーケットは注目しています。