雇用統計など米経済指標は「インフレピークアウト」示唆
マーケットは直近の米経済指標を受け、「インフレピークアウト」の期待を高めています。しかし、米当局が警戒感を緩めないなかでは、米金利低下・ドル安や株高を決め打ちしたマーケットが、修正を迫られるリスクもある点に注意が必要でしょう。
先週末1月6日のNY市場では、注目の米経済指標である12月米雇用統計の内容を受け、「インフレピークアウト」の観測が高まりました。非農業部門雇用者数は前月比22.3万人増と予想の20.0万人増を上回った一方、平均時給が前月比+0.3%/前年比+4.6%と予想の前月比+0.4%/前年比+5.0%を下回ったためです。
賃金インフレの伸び鈍化が確認され、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めが長期化するとの懸念が和らぎました。米長期金利の指標となる10年債利回りは3.75%付近から、昨年末12月19日以来の水準3.5%台まで急低下(図表)。ドル円相場は132円半ばから131円半ばまでドル安・円高が進みました。
雇用統計で賃金面の「インフレピークアウト」が示唆されたほか、12月米供給管理協会(ISM)非製造業指数が49.6と、55.0程度の結果を見込んでいた市場予想を大きく下回りました。好・不況の分かれ目とされる50を割り込んでしまいました。
賃金インフレの先行きは、米産業の8割を占める非製造業部門・サービス業の賃金動向が鍵を握っていると認識されています。そのため、ISM非製造業指数の弱まりと「インフレピークアウト」の見方を絡めて考えるマーケット参加者が多いのです。米金利低下・ドル安アが進んだ一方、景況感が弱まる中でもNY株式相場は大幅反発しました。
米「インフレピークアウト」観測が強まる一方、FRB警戒は緩まず
しかし、FRBは「インフレピークアウト」の兆しが見えたとしても、警戒感を緩め過ぎないように腐心しています。せっかくここまで地道に積み上げてきたインフレ鈍化のための努力を無駄にしないためです。米金利の先安観が台頭して、インフレ抑制効果が急激に後退するリスクを懸念しています。
昨年11月に発表された米国の10月消費者物価指数(CPI)は、市場予想を下回る前月比+0.4%(予想 +0.6%)、前年同月比+7.7%(予想 +8.0%)、FRBがインフレ指標としてより注目しているエネルギーと食品を除くコア指数も前月比+0.3%(予想 +0.5%)、前年同月比+6.3%(予想 +6.5%)となり、これまでの想定より鈍化ペースが速まってきたとの見方が出てきました。
この際に米10年債利回りは4.1%台から3.8%付近へ急低下、ドル円は146円台から140円台へ急落しました。ダウ平均が1200ドル以上の上昇で3.7%高、ナスダック総合指数は7%以上も上昇するなど、米株式主要3指数は軒並み急反発。株式市場にとっては好材料となりました。
FRBは、金融政策を話し合う連邦公開市場委員会(FOMC)で、直近11月まで4会合回連続で政策金利であるフェデラルファンドレート(FF金利)の誘導目標レンジを0.75%へ大幅に引き上げていました。しかしCPIの伸びが予想以上に鈍化したことで、「データ次第」と述べていた政策金利の引き上げ幅を、次回12月会合で0.50%にとどめる蓋然性が強まりました。
それでもFRBは12月会合で、利上げを0.50%にとどめた一方で、11月時点で4.8%台だったFFレート引き上げの上限とされる「ターミナルレート」を、12月会合で5.1%台に上方修正しました。利上げ幅縮小でいったん金利低下・ドル売りで反応していたマーケットに巻き戻しが入りました。
先週末の12月米雇用統計で「インフレピークアウト」観測が高まった局面でも、ボスティック米アトランタ連銀総裁は「データは励みになる」としつつも、「インフレがピークに達したというには早すぎる」と発言。クックFRB理事もインフレ水準が非常に高すぎる点に言及していました。
週明け以降も、デイリー米サンフランシスコ連銀総裁が「インフレは考えられているよりも持続的」
「最大のリスクはインフレ期待が上方へいくこと」「コアインフレは思ったほど下がっていない」と述べています。注目された10日のパウエルFRB議長の講演では強い警戒感は示されなかったようですが、同日ボウマンFRB理事は「インフレを下げるため、やるべきことは依然として多くある」としていました。
9日に米ニューヨーク連銀が発表した12月消費者期待調査で、1年先のインフレ期待が5.0%と前回の5.2%から低下し、2021年7月以来の低水準を記録したことも重なり、マーケットは「インフレピークアウト」の期待を相当高めています。しかし、F警戒を緩めていないことが、各FRB高官の言葉からうかがえます。
米金利低下を追いすぎたり、ドルを売り込んだりした場面では、短期的にせよ巻き戻しの動きを余儀なくされる場面もありそうです。戻りを試す米株など、株価が思いのほか深めに調整するリスクにも気をつけたいものです。