8兆円規模の介入実施
政府・日銀は8兆円規模の介入を行い、円安加速に歯止めを掛けようとしています。ただ、当局の「介入余力」はあと7-8回分とされるなか、介入頼りの円安対策には限界がありそうです。
4月29日、昭和の日の休日で東京市場が休場のなか、政府・日銀は午後1時台と午後4時台に円買い介入に踏み切ったとみられます。同じく介入と思われる動きは5月1日、午後4時台にも観測されました(図表参照)。
鈴木財務相や神田財務官、林官房長官など当局者は為替介入の有無への言及を回避しています。介入実施の有無を公表しない覆面方式で介入を行ったと考えられています。
4月29日の介入では5兆円以上のドル売り・円買い介入が行われたとされています。2022年の円安局面において10月21日に実施された過去最大規模5.6兆円の介入に迫る金額だったとの見方です。
5月1日の介入は3兆円規模とされています。計3回、各日の介入で8兆円超えとされる介入を行ったことになります。これは、1週間の規模として過去最大の円買い・ドル売り介入となります。
発行権のある自国の通貨を売る円売り介入と異なり、円を買う一方でドルなど他国通貨を売る介入は原資に限りがあります。元手となるのは政府・日銀の手持ち外貨「外貨準備」の範囲にとどまります。
4月5日、財務省が公表した3月末時点の「外貨準備などの状況」によれば外貨準備は約1.29兆ドル(3月末レート151.35円換算=195.2兆円)。そのうち外貨預金の1550億ドル(同23.46兆円)はそのままドル売りに使える金額となります。
その他に証券9948億ドル(同150.56兆円)がありますが、このうち売却について米政府の了解を得られにくい長期債ではなく、満期1年未満の短期証券1720億ドル(同26.03兆円)が介入に用いることができる原資と考えられます。預金と短期証券のうち、外貨建て債務の返済が困難になった際にも使う外貨準備のうち、介入に使えるのはざっと3000億ドル(約45兆円)と推計されています。
今回の局面での介入目前の換算で約45兆円とされる原資のうち、これまで8兆円程度の介入をおこなったとするなら、残りは37兆円ほど。1回当たり5兆円ほどの介入を行うとして、レート変動を見積もっても「介入余力」はあと7-8回分といったところでしょう。
「介入余力」や効果を見透かし円安地合い継続
この「介入余力」を十分とみるかどうか議論は分かれるところでしょうが、足もとの円安推移をみる限り、円安進行のスピード調整の域は出ないとの評価でしょう。当局が覆面方式で介入を行っているのも、力ずくの介入で円安加速を抑え込むことが難しいため、市場の疑心暗鬼も誘って効果を高めるために介入を公言していないのではないかと思えてしまいます。
そもそも介入、それも本邦当局の単独介入だけで円安を抑え込むことは難しいでしょう。日米韓協同声明でもうたわれた「既存のG20(20カ国・地域)のコミットメントに沿って」といった範疇で行われる介入であるのなら、急激な相場変動をならすためのスムージングの範囲と考えることができます。
4月25-26日の日銀金融政策決定会合後の会見で、植田総裁が「今のところ基調的な物価に円安が大きな影響を与えているわけではない」と述べたことが円安を推し進める一因となりました。物価面での円安の影響を重くみていないとマーケットが受け止めたためです。
しかし5月7日以降、植田総裁は「為替について十分注視していくことを確認」「円安で今後基調的物価情勢にどういう影響が出てくるか注意深くみていく」、そのほか「(円安)これまでのところは基調的物価に大きなは影響ない」としながらも「足もとの円安、今後基調的物価上昇に影響してくるリスクがある」と、言質を少しずつ変えてきた感があります。日銀が物価面への影響を考慮して金融政策を運営していく姿勢を示すことは円安抑制の一助になるでしょう。
それ以外にグローバル展開する企業の海外に滞留した資金を日本へ還流する際に掛かる税金を優遇する措置などが円買い・外貨売りを後押しする手立ての1つになりそうです。いずれにしろ残り7-8回と推察できる「介入余力」に頼るだけの円安対策であれば、円先安感を後退させるのは難しそうです。