トルコリラ円が4円の節目を下抜けて史上最安値を更新しています。2018年のトルコショックほか過去の状況をほうふつとさせる「トルコショック2.0」ともいえる状況です。トルコ当局の対処療法で揺り戻しが入る場面はあっても、政情不安や適切な金融政策の実施が難しい状態では、トルコからの資金流出、リラ安の流れは止まりにくいでしょう。
政情不安でトルコリラ最安値更新
トルコリラは、3月19日にエルドアン・トルコ大統領が政敵のイマモール・イスタンブール市長を拘束したことをきっかけに高まった政情リスクを嫌気して売りを強めました。対円では節目である4円を割り込んで3.60円付近(図表1参照)、対ドルでは41リラ付近(※ともに急変動で正確な提示レートが把握できない状態であるため参考値)までリラ史上最安値を更新しました。
首都イスタンブール市長の座は、エルドアン大統領が現在の地位まで登り詰めるきっかけになったといえる政治的ポジションです。イマモールは、その座から2028年の大統領選へ向けて世俗主義政党である野党・共和人民党(CHP)の大統領選候補に23日に選出される予定でした。
出鼻をくじくため、エルドアン政権が同氏を汚職などの容疑で拘束・収監するに至りました。トルコ国内では連日10年ぶりの規模となる抗議デモが続いており、これまで1500人ほどのデモ参加者が拘束されたといいます。
対処療法での揺り戻しあっても資金流出懸念は収まりにくい
トルコリラは2000年代後半、トルコ経済発展への期待や高金利である新興国通貨ブームのなか有利な投資先通貨として人気を博しました。しかし2008年のリーマンショックによるリスク回避でリラ円が93円付近から53円台まで暴落したほか、2018年のトルコ在住の米国人牧師拘束問題から米国との関係悪化を背景とした「トルコショック」、そして国際的にインフレ基調が強まり始めるなか2021年秋にエルドアン大統領の「利下げがインフレ対策になる」との常識とかけ離れた信念に基づく金融政策にマーケットがあきれてリラを売り叩いた局面などを経て安値更新の流れが続いています(図表2参照)。
あしもとの動きはトルコショック第2弾、「トルコショック2.0」ともいえる状態です。通貨急落への対応をとして20日、トルコ中銀は緊急会合を開催して翌日物貸出金利を従来の44%から46%に引き上げることを決定したことも効いて、トルコリラは下げ渋っています。
ただ、リラ円は4円の節目を前に戻りが鈍い状態。政情不安や金融政策、経済の行方といった根本的な状況が改善しないなかでは買い戻しにも限界があります。
シムシェキ・トルコ財務相は25日、各国・地域の投資家と電話会議を行い、混乱を落ち着かせるためにはあらゆる手段を講じるとの意向を表明するなど、マーケットの安定化に努めています。カラハン・トルコ中銀総裁は、急激に高まったマーケットの変動率は「一時的なものとみなしている」との見解を示しています。
しかし、大きく突っ込むようにトルコリラ・ベースの資産が売り込まれたことへの反動もあって金融引き締めなど対処療法を講じたところで揺り戻しが入る局面があったとしても、政情不安を背景とした資金流出への懸念は簡単に収まりそうではまりません。コントロールを失っているトルコの物価動向へリラ安が与える悪影響もフィードバックしそうであり、揺り戻しが入ったとしても売り再燃を繰り返すような、不安定な状況が続きやすいでしょう。