ドル円 ダブルトップ形成、頭打ちで円買い戻しへ
米インフレの落ち着きや景気後退懸念、日銀の利上げ・タカ派転身などがドル円相場のドル安・円買いを大きく進めたと考えられています。しかしここまでの急激な動きの背景には投機筋による「IMM円ショート取り崩し」があったと考えるのが妥当でしょう。その流れに一巡感があり、動意は落ち着いていくとみていいのではないでしょうか。
ドル円相場は7月3日につけた1986年12月以来、約37年半ぶりの高値161.95円、そして同10日に一時161.81円と、162円を目前に伸び悩み反転下落パターンのダブルトップを形成する格好で頭打ちとなりました。それまでの円売り相場に対する急速な巻き戻しが、その後は大きく進むことになります(図表1)。
結局、8月5日には年初1月2日以来の安値141.70円まで売りを強める結果となりました。年初からの上昇幅をほぼ帳消しにし、下落幅は20円を超えています。
7月上旬に約37円半ぶりの高値圏とあって警戒感が高まっていたところで、11日発表の6月米消費者物価指数(CPI)が予想比で下振れたことが下落進行の1つのきっかけになりました。ただ、その局面の下落は前述したダブルトップのターゲットの範囲ともいえる158円付近のレンジでいったん落ち着いています。
ダブルトップのターゲットの目安はまず、直近の最高値161.95円から、それに次ぐ高値161.85円に挟まれた押し目である7月8日安値160.26円までの値幅1.69円を同安値から差し引いた158.57円。さらに同じく1.69円を差し引いた2層倍の156.88円、そして3層倍の155.19円などが想定されました。
11日の米7月CPI発表後、一気に157円台まで下振れて最初のターゲット158.57円を達成したものの、同日は158.88円へ戻してNYを引けています。17日に次のターゲット2層倍156.88円を割り込み156.07円、翌18日に3層倍155.19円に迫る155.38円まで順次下落幅を広げたものの、19日には一時157.86円と、158円回復をうかがう様相を示していました。
日銀利上げ・タカ派転身が円買い後押し
もっとも、その後も米景景気後退懸念の浮上や、7月22日に自民党の次期総裁有力候補の1人である茂木幹事長による「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」との発言も後押しにドル売り・円買いが再燃するなど、8月5日の直近安値に向けた動きが再開します。
ちなみに7月17日に156円台のダブルトップ・ターゲット2層倍を達成した際の一因は「河野デジタル相が円安是正のため、日銀に政策金利を引き上げるよう求めた」との報道であり、茂木幹事長発言とともに合わせ技のように日銀絡みの円買いの思惑を強める背景となっていました。
ただ、この段階でも下落は4月にいったん160円台へ乗せた後に反落が止まった152円前後までにとどまっています。しかし7月31日の日銀金融政策決定会合がダメ押しになりました。
大方の予想に反した利上げもですが、大きかったのは緩和的な姿勢を保ちつつ政策変更を進めるとみられハト派とされていた植田日銀総裁が、タカ派へ転身したと金融マーケット参加者に受け止められたことです。同総裁が前回2006年から2007年の利上げ局面で天井となっていた金利水準0.50%について、「特に意識していない」と述べたことが材料視されました。
ドル安・円買い進行の背景「IMM円ショート取り崩し」
とはいえ、日銀の利上げ・タカ派転身までの流れをダメ押しに円高が大きく進んだと受け止めておくだけではよくありません。何が本当の核となり、年初来からの上昇幅を帳消しにするまでの円買いを推進したのか推察しておくことが大切です。
やはりシカゴ・マーカンタイル取引所の国際通貨先物市場(IMM)の投機的ポジションにおける円の売り買いの状況が大きく関わっていると考えられます。同市場の投機筋の円売りポジションはドル円相場のピーク局面におおむね相当する7月2日の集計で184,223枚(枚=1取引単位・仮想元本1250万円)と2007年6月以来、約17年ぶりの水準まで積み上がっていました(図表2)。
米インフレの落ち着きや景気後退懸念、日銀のタカ派転身など局面ごとのきっかけは様々でしたが、その流れを大きく後押ししたのは投機筋の「IMM円ショート取り崩し」により、それまでに溜っていたマグマのようなエネルギーを開放する動きだったといえるでしょう。
ただ、先週末10日発表の6日集計分の円ショートは11,354枚まで縮小しました。主要通貨のポジョションとしては最もスクエア(中立)に近い状態となっています。
ここからは「IMM円ショート取り崩し」でパニック的に進んだような円買いは起こりにくくなっていると思っていいでしょう。逆に円ロングを積み増す余地があるともいえますが、積み上げの流れは取り崩し局面と比較すれば落ち着いた動きになりやすいと考えられます。
日銀利上げ局面で、タカ派転身との観測も加わりダメ押しで大きく円買いが進んだ状況を目の当たりにしたことは、多くの金融マーケット参加者の記憶から払しょくしきれていないでしょう。しかしさらなる利上げがあったとしても、現状のIMMポジションから推察する限りでは、倍打ちのように円買いが再加速することにはなりにくいと想定できます。