ジャクソンホール会議・FRB議長講演はタカ派的
米カンザスシティ連銀がワイオミング州北西部ジャクソンホールにて8月24-26日の日程で開催した年次経済・金融シンポジウム、通称「ジャクソンホール会議」が終了しました。今後の米金融政策の行方・転換点を示唆することも多いとして注目の米連邦準備理事会(FRB)議長講演では、パウエル議長が「インフレの持続的な鈍化まで景気抑制的な政策を維持する」と述べています。
タカ派な内容と受け止められ米金利は上昇。週明けもドルの底堅さが続きました。29日にドル円は、中国当局が打ち出した資本市場活性化策や米中緊張の緩和観測によるリスクセンチメント改善もあって一時147.37円と昨年11月以来、約9カ月半ぶりの高値を付けています。
ただ、総じていえばFRB議長の講演内容自体はインフレ抑制の姿勢維持に釘を刺しつつも「無難な内容に終わった」とマーケットで受け止められた感もあるようです。もう1つポイントとなったのはパネル討論会に参加した植田日銀総裁が示唆した金融政策姿勢でしょう。
今年の「キーワード」FRBと日銀の金融政策格差
植田総裁は「基調的インフレは依然として2%目標を下回っている」「日銀の緩和堅持は目標を下回っているインフレが理由」などの見解を述べました。イールドカーブコントロール(YCC)の運用柔軟化などに動いてはいるものの、金融緩和は維持しているとの姿勢を改めて示す結果となりました。
インフレ抑制を優先事項に据え置いたままのFRB、インフレ引き上げの措置継続が必要と考える日銀。この姿勢の差異を改めて確認したことが今年のジャクソンホール会議における最も重要な「キーワード」だったといえます。
日米金融政策の方向性の相違を理由に、米系大手金融機関のなかには円安が30年以上も前のレベルまで進む可能性を指摘する向きもあります。ドル円が半年のうちに155円に達するとの見方です。
為替水準・速度次第で介入警戒もジャクソンホールは円安示唆
ドル高・円安推移進行に際して、懸念されるのは政府・日銀による円安阻止の介入となります。基調インフレはまだ低いとしながらも、国民が物価高に不満を抱く状況のなかで、輸入インフレの原因になる円安について「再度の150円乗せは死守してくる」とのマーケット関係者の声も聞かれました。
為替のレベル感も重要ですが、円安進行のスピードも重要なポイントになります。急激に円売りが進み、円安で苦境に立たされる輸入企業の手当てが困難になる状況は回避したいところです。
月末ゴトー日(5・10日)に当たった今週30日、ドル円が146円台へ戻したところでは本邦輸出企業がドル売り・円買いを入れてきましたが、一方で「下押したところを拾いたい輸入企業など実需も145円台で待っている」(市場筋)といいます。
しかし、ジャクソンホールでいつも注目される米金融政策の方向性と同様、あるいはそれ以上に注目されたといえる日米金融政策の差異からすれば、ドル高・円安がじりじり進んでいくのはある程度致し方ないかもしれません。そうしたなか下値で多少なりともドルを手当てしたい輸入企業を置いてきぼりにしないよう対処もしたいでしょう。
前述した150円の壁を1つのめどとしつつ、スピード感が許しがたいペースになったところでは、調整の円買い介入が行われる可能性はあります。とはいえ日米金融政策の方向性からすれば各国金融当局が重視する市場原理にしたがい円安になるのは必至。それを確認したジャクソンホール会議だったということができ、現状では高値圏における調整を挟みつつも円安は粛々と進みそうな状態です。