9月の日銀金融政策決定会合後は株高・円安が進んでいます。しかし与党サイドの圧力を受けた日銀が「タカ派」と「ハト派」の間を右往左往してマーケットを揺さぶっている感があります。独立性が怪しい「揺らぐ日銀」の高官発言にAI(人口知能)が反応し、追加利上げの前提ともされる「市場の安定」を乱す流れが続くでしょうか。
日銀総裁ハト派姿勢で株高・円安
9月20日の日銀金融政策決定会合後、円を売る動きが進んでいます。政策自体は現状維持だったものの、会合後の会見で植田総裁が示唆したスタンスがハト派(金融緩和支持)的と受け止められ、円売り進行のきっかけとなりました。
植田総裁は「経済・物価見通しが実現していけば政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになる」と述べた一方、「為替の動向や物価上振れリスクが相応に減少していることで時間的に余裕がある」「今年2回の利上げの影響を踏まえつつ、徐々に中立金利への認識を深めていく段階」「直ちに見通しの確度高まり、すぐ利上げとはならない」などと発言。「利上げを急がないややハト派寄りの姿勢」と受け止められ、円を売る動きが広がりました。
同会合結果発表・会見前は、前日19日未明(米現地18日)公表の米連邦公開市場委員会(FOMC)の予想を上回る0.50%利下げ後の下振れをこなして144円近辺までドル高・円安方向へいったん揺り戻しされていた動きが、警戒感から141.74まで押し返されていました。しかし植田総裁の会見中から円売りが進み、144円台へ乗せる円安となっています(図表参照)
その後の植田総裁による発言も、円売り地合いを支援しました。24日、同総裁は大阪経済4団体共催懇談会において「政策判断にあたり時間的な余裕がある」などと発言。前週末の記者会見と同じく、早期の追加利上げを急がない姿勢を示したと受け止められています。
与党圧力で「揺らぐ日銀」
気になるのは7月30-31日の金融政策決定会合で利上げや国債買い入れ方針の変更を決定するとともに、同総裁が会見で前回2006年から2007年の利上げ局面で天井となった0.50%について、「特に意識していない」と述べるなどタカ派的と受け止められる姿勢を示していたにもかかわらず、翌会合となる9月にはハト派とされる姿勢へ急転と、「揺らぐ日銀」の状態です。
7月の政策変更や、同会合前までハト派寄りとされていた植田総裁のタカ派(金融引き締め支持)方向への転身の背景には、報道された「河野デジタル相が円安是正のため、日銀に政策金利を引き上げるよう求めた」との事情や、茂木自民党幹事長の「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」との発言など、与党サイドの圧力が感じられました。
日銀がタカ派へ転じたとされ株暴落・円急伸した後を受け、内田日銀副総裁が「金融市場が不安定な状況では利上げをすることはない」と火消しと思われる発言をしています。利上げ継続の前提に「市場の安定」との条件を提示し、145円を挟んで上下していたドル円は148円手前まで戻しました。
そして9月会合や今週の大阪懇談会での発言などハト派的な発言へとつながって株高・円安を支えている格好ですが、この局面でも与党要人からの圧力が感じられる発言が聞かれています。高市経済安全保障担当相は23日、日銀の金融政策に対し「金利をいま上げるのはアホ」と、インターネット番組内で釘を刺しました。
それ以前も7月会合後の8月9日、金融・財政政策にかかわる自民党・財政健全化推進本部の事務局長である越智・衆院議員がインタビューで「(利上げ)慎重に進めていくべき」との見解を示しています。利上げ自体は悪くないが、追加利上げ示唆への言及に苦言を呈する内容でした。
利上げ圧力をかけたような与党要人から株急落・円暴騰への弁明のような言葉は特に聞かれない一方、その尻拭いで総裁ほか日銀高官が「タカ派」と「ハト派」の間を右往左往させられる「揺らぐ日銀」の様相。責任の所在がはっきりしない立ち位置から場当たり的な対策を講じるよう、背後に隠れるように与党が日銀の背中を押しているイメージでしょうか。
独立性が感じにくい「揺らぐ日銀」の姿勢変転で、株安・円高へ大きく振れた金融マーケットは株高・円安方向へ戻しましたものの、その動きもまた反動があったとはいえ急激でした。どちらも「揺らぐ日銀」が、追加利上げの前提となる「市場の安定」を乱す結果になったといえます。
「揺らぐ日銀」の高官発言へ反応したAI(人口知能)によるトレードもマーケットを荒っぽくしている要因といえます。しっかりしない政府・日銀の姿勢を反映した、しっかりしない荒っぽいマーケットが続くリスクを抱えた状態と考えていいでしょう。