地区連銀輪番体制ほかメンバーのタカ・ハト変化
米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策が曲がり角に達しつつあるなか、2024年の米金融政策を決定する「FOMC投票権」を持つメンバーのタカ(金融引き締め派)・ハト(金融緩和派)の姿勢を把握することが大切です。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はマーケットが前のめりで利下げを織り込むことをけん制していますが、ハト派へ傾斜している「FOMC投票権」を巡るバランスに留意しながら、FRB高官の発言を追いつつマーケットを注視する局面が続くことになりそうです。
米FOMCは直近の1月30-31日会合で政策金利であるフェデラル・ファンドレート(FF金利)の誘導目標レンジを4会合連続で5.25-5.50%に据え置くことを決定しました。利上げサイクルは終了したとされ、金融マーケット参加者は利下げへ転じる時期がいつになるか思惑を巡らせています。
そこで注視すべきはFOMCの金融政策決の多数決において「投票権」を持つメンバーの見解です。常に投票権を持つ米連邦準備理事会(FRB)議長と副議長2名、理事4名、常任投票メンバーであるNY連銀総裁、そして輪番で投票する4地区の連銀総裁による合計12票が金融政策の行方を左右します。
昨年2023年の輪番だったシカゴ、フィラデルフィア、ダラス、ミネアポリスから、2024年はクリーブランド、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコの各地区連銀へ「FOMC投票権」が移行しています。2023年のタカ・ハトの姿勢が比較的判断しやすいメンバーはタカ派がミネアポリス、ダラス、フィラデルフィアの3地区連銀総裁とウォラー理事の4名で、ハト派はNY、シカゴの2地区連銀総裁と理事2名を合わせ4名でした(下記表参照)。
2023年はタカ・ハト各4名で数の上ではバランスが拮抗していました。しかし2024年はタカ派の地区連銀総裁が1名減り、ややバランスがハト派寄りになっています。
タカ派メンバーのハト派的見解にも留意
さらに気をつけなければならないのは、2024年に「FOMC投票権」を持つメンバーのなかでは最もタカ派寄りと考えられるメスター・クリーブランド連銀総裁でさえ年内3回の利下げを予想していることです。ただ、利下げの時期については「急ぐ必要性があるとは思わない」として、慎重に政策の転換を図るべきとしています。
従来タカ派とされていたウォラー理事が昨年後半、「インフレ率がさらに数カ月間低下し続ければ、政策金利を引き下げる根拠は十分にある」と述べたことも注目したい点です。タカ・ハトの表において従来の基本姿勢からタカ派であると表示されることも依然として多いのですが、ここ最近の発言から「データ次第」とする中立派に位置づける専門家が増えています。「目標は近づいているが、確実にするためには今後数カ月以内にさらに詳しい情報が必要」「利下げ時期と回数は今後のデータ次第」などと述べています。
ただ、「FOMC投票権」を巡る環境がややハト派寄りへ傾いているとの見方があるなか、金融マーケットが前のめりに利下げを織り込みがちであることに対して、中立派とされるパウエルFRB議長は先日のFOMCで「3月利下げの可能性が高いとは考えていない」などとして、マーケットの動きをけん制してもいました。これまで積み上げてきた引き締め効果が早々にはく落してしまうことを回避したいのだと思います。
一方でボウマン理事はこれまでの中立的な立場から、1月のFOMCを前にして「インフレの低下が停滞した場合には引き続き利上げの用意がある」と述べ、FOMC後にも「まだ利下げが適切な段階には達していない」との見解を示していました。ウォラー理事に代わってタカ派寄りに位置付けられるようになり、全体のバランスを大きくハト派寄りへ崩すことを回避する結果につながっています。
ちなみに、今年は投票権がなくなりましたが、昨年までタカ派寄りとされていたハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が直ちにではないとしながらも「利下げすべきではある」と発言する場面もありました。基本姿勢として「FOMC投票権」を持つメンバーの見解を中心に追うことになりますが、FRB内の見解の変遷も注視しつつマーケットの動向を追う局面が続きそうです。
また、可能性としては6月退任予定のメスター・クリーブランド連銀総裁に代わって、同連銀がもし新総裁を選出できなかった場合、ハト派とされるグルーズビー・シカゴ連銀総裁が「FOMC投票権」を引き継ぐこともあり得る点は、タカ・ハトのバランスをみる上で留意しておきたいところです。