言葉からひも解くマーケット

第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開

高値更新直後に下振れる場面散見

 

ドル円は日米金融政策の歩調の差異からドル高・円安基調にあります。しかし本邦通貨当局による円買い介入への警戒感も強いなか、「介入が入ったのでは?」と思わせるような急激な振れに見舞われるいわゆる「なんちゃって介入」に一喜一憂するような状況が続くかもしれません。

 

4月16日NYタイム序盤、ジェファーソン米連邦準備理事会(FRB)副議長が「今後発表のデータでインフレが現在の予想よりも持続的と示唆されれば、現在の引き締め姿勢をより長期間維持することが適切」と述べました。米利下げ先送りの観測が強まり、米10年債利回りは4.694%前後と昨年11月13日以来水準まで上昇しました。

 

ドル円相場は米長期金利上昇を支援としたドル買いを後押しに上昇。154.77円まで1990年6月以来、約34年ぶりの高値を更新しました(図表参照)。

 

 

 

しかし155.00円の節目も視野に入りつつあった同水準でいったん頭打ち。伸び悩むなか154円ちょうど付近まで下振れる場面がありました。

 

歴史的な円安水準とあって本邦通貨当局による為替介入への警戒も高まっており、やや円買いの動きが強まったことで、「当局が動いたのでは」と感じた向きもあったようです。ただ、これは高値警戒感から手控え気味で一服感も出ていたところで、オプション(OP)防戦売りが主体であると思われますが、ある低度まとまった売りフローが出たことが下落を加速させた要因だったようです。

 

155.00円には、同レベルに相場が達すると消滅するノックアウト条項の付されたOPが多く観測されているようです。詳細な売買の内容にもよりますが、ノックアウトを防ぐために同水準をつけさせないといった投機に近いような動きではないのですが、OPが消滅した場合に備えたオペレーションや、その他ノックアウトタイプ以外のOPが権利行使される事態になった際の勘定を多少なりともカバーするための活発な取引がOP設定水準付近で観測されます。

 

また、それらの取引フローに乗じて、介入を思わせるようなドル売りを浴びて値ざやを稼ぐ、いわゆる「なんちゃって介入」を仕掛けた短期投機的な動きであった可能性もあります。仕掛け的な動きでなくとも、流動性が低下気味のなかOP関連のフローあるいは利食い集中などで値動きが加速し、介入と疑いたくなるような値幅の振れとなることを「なんちゃって介入」と呼ぶこともあります。

 

しかし、16日の「なんちゃって介入」後、パウエルFRB議長がインフレについて「最近のデータはさらなる進展が見られないことを示している」「確信を得るまでにはさらに時間がかかる可能性が高い」と述べたことで、米10年債利回りは再び4.69%台へ揺り戻され、米金融政策の影響を受けやすい同2年債利回りは一時5.0063%前後と昨年11月14日以来の高水準を付けました。

 

米金利上昇を受けてドル円は再び上昇。一時154.79円円と、ジェファーソンFRB副議長の発言を後押しにつけた154.77円をわずかながら上回り、約34年ぶりとなる高値を更新しました。

 

マーケット参加者の警戒を誘った直近の下振れは帳消しとなりました。「『介入』では?」との懸念を強めた急な振れが、「なんちゃって」だったことが証明される格好となりました。

 

 

前日にも「なんちゃって介入」、今後も悩まされそう

 

この「なんちゃって介入」といえるような動きは、前日15日に、3月米小売売上高が予想を上回ったことで米金利上昇、ドル円の上昇が154.45円まで先行した直後にも見られました。153.88円前後まで下値を試す場面がありました。

 

もっとも、これはイスラエルが「明確に強力に」再報復する方針を決定とする報道が伝わったことで、リスク回避の米株急落となったことも要因だったようです。ただ、加えて短期投機的な売り浴びせが重なっていたことも否定しきれません。

 

いずれにしろ、警戒感を誘いやすい歴史的な円安局面とあって、「なんちゃって介入」を仕掛けたり、仕掛けがなくとも「介入」ではと警戒を高めたりするような「なんちゃって」な動きになりやすいことは間違いありません。当局が実弾介入をしても、日米金融政策の歩調に格差があるなかではドル高・円安基調が大きく崩れることはないとみますが、「なんちゃって介入」に気持ちを冷やりとさせられそうな場面を挟みつつ相場を追う流れが続くことは避けられそうにありません。

この連載の一覧
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
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第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
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第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
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第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
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第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
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第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
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第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
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第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
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第46回「米利上げスキップ」の有無
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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