「逆イールド」本来の姿を維持できない不安定な状態
アメリカの債券市場では、償還までの時期がより短い債券の利回りが、年限の長い債券の利回りを上回る長短金利差逆転「逆イールド」が発生しています。これは先行きに対する不安を示す状態。今後の景気後退(リセッション)の示唆とされています。
いま注目度が高いのは2年債と10年債の利回り格差です。先週末25日時点で2年債利回りは3%をやや上回る推移準で、10年債は2.8%付近。0.2%以上も2年債の利回りが高くなっています(図表1)。
本来、年限が長ければ、期限までに債券が償還されないアクシデントが発生するリスクなどを考慮し、利回りは高くなります。しかし現在は、足もとの物価高騰を抑制するために金利引き上げが必要な一方、金利引き上げが企業活動や消費など実体経済の活動を鈍らせ、景気後退に陥るリスクが意識されています。その状態が短期金利を押し上げる一方、長期金利を押し下げる圧力となっているのです。本来あるべき姿を維持できないほど、不安定な状態と言い換えることもできます。
先行き不安で長期金利低下
→長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」発生
→「逆イールド」は今後の景気後退の可能性示唆
→金融市場が「逆イールド」を嫌気、株安や為替市場のリクス回避が強まる
以上のようなスパイラルが金融市場を弱体化させかねません。
米利上げ前のドル調整、「逆イールド」も一因?
アメリカの中央銀行に相当する米連邦準備理事会(FRB)は、現地7月26日から金融政策を決定するイベント・連邦公開市場委員会(FOMC)を開始しました。結果公表は同27日(日本時間28日午前3時)となります。
政策金利であるフェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導目標水準は現在1.50-1.75%です。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が公表しているFF金利先物の動向から利上げ幅を予測するツールであるフェド・ウォッチは現地26日時点で、今回会合におけるFF金利水準の0.75%引き上げを8割程度織り込んでいます。大方の見込み通りなら、FF金利は2.25-2.50%となります。サプライズとして2割ほどの確率で1.00%の利上げ(FF金利水準は2.50-2.75%に)も予想されています。
ドル円相場は、アメリカの利上げを織り込み一時139円台と24年ぶりの高値をつけました。しかし、足もとで一時135円台まで調整安となりました。一因は、いったん8割ほど織り込んだ1.00%の利上げ予想が後退し、0.75%利上げを予想する向きが主力となったためとされています。
でも、「逆イールド」も大きな材料といえるでしょう。今後に対する不安が積極的な投資行動を控えさせて株価の戻りを鈍くし、為替はリスク回避の円買い(相対的なドル弱含み)を意識している可能性もあります。
ただ、コロナ感染拡大による突発的な景気後退局面を除き、逆イールドが発生してから実際に景気後退に陥るのにおよそ2年強、だいたい2年2カ月ほど時間を要するとされています。特に米国株は逆イールド発生に過敏に反応する場面はあるものの、上昇基調が転換するのは実際に景気後退が始まってからといわれています。株安にともなう為替市場の本格的なリスク回避が発生するのも、もう少し先かもしれません。