物価高止まるCPIショックの状況から「逆CPIショック」に移行
10月の米消費者物価指数(CPI)が予想を下回ったことで、米利上げペースが鈍化するとして、米金利低下・ドル安が進みました。CPI上昇時の「CPIショック」に対して「逆CPIショック」と呼ばれていますが、依然として米CPIは高水準。ドル売りがさらに激しく進むとも断定しにくいでしょう。
先週11日、アメリカ労働省が発表した10月CPIは前年同月比7.7%の上昇となり、8.0%程度を見込んでいた市場予想を下回り、前月9月の8.2%より0.5%も伸び率が鈍化(図表1)。変動の大きい食品やエネルギーを除いたコアCPIも同6.3%上昇と、市場予想の6.5%を下回り、前月の6.6%から上昇率を縮小しました。
10月CPIの結果を受け、米10年債利回りは4.2%台から3.8%付近へ下振れ。ドル円は146円台から、先週末138円台まで下落幅を広げました。
米CPIは6月分の前年同月比+9.1%をピークに、7月分はいったん+8.5%と市場予想の+8.7%や前月の伸びを下回る落ち着きを示しました。しかし、8月分が+8.3%と市場予想の+8.1%を上回り、翌9月分も+8.2%と市場予想の+8.1%より強い結果となりました。いわゆるCPIショックと呼ばれる一連の物価高止まり状態です。
対して今回10月のCPIの伸び率失速は、「逆CPIショック」と称されています。10日、CPIの伸び鈍化が確認された後、米ダラズ地区連銀のローガン総裁はCPIの結果について「歓迎すべき」と延べました。ただ、インフレとの戦いについては「先はまだ長い」としています。
そもそも、10月CPI発表前、8月分、9月分も、市場予想は上回ったとはいえ、それぞれ前月分より伸び率は縮小していました。しかし、これに先がけ11月1-2日開催の連邦公開市場委員会(FOMC)がタカ派寄りの内容になっていたことが意識され、マーケットのインフレ警戒は緩んでいませんでした。そうしたなかで弱めな10月CPIが発表されたことがマーケットの意識とのギャプを生み、今回の結果が「逆CPIショック」と呼ばれるほどのインパクトを与えたのでしょう。
11月FOMCでは今後、利上げ幅が縮小する可能性が高いとされた一方、ターミナルレート(利上げの最終到達点)が従来の予想を上回るとの見通しが示されていました。
「逆CPIショック」受けても依然インフレ高水準
とはいえ、米CPIの伸び率は、米連邦準備理事会(FRB)の目標値2%から大きくかけ離れています。目標達成に向け、FRBの利上げはまだ続きそうです。12月の利上げ予想は、10月CPI発表前の0.75%がやや優勢だった状態から0.50%の利上げ予想優位へ後退しました。
しかし、まだ目標の2%より十分に高い状態のCPIを抑制するため、利上げは続きそうです。12月に0.50%の利上げを行った後、来年1月31日-2月1日、3月21-22日のFOMCでそれぞれ0.25%ずつ利上げを行うシナリオが考えられます。
まだ利上げが続く状況で、10月CPI発表後に進んだような勢いでドル相場の下落が続くとは考えにくいでしょう。再びドル円が150円台へ乗せるような強さはないにしても、現水準から上下しつつ緩やかに戻し「年末145円付近」(シンクタンク系エコノミスト)との見方などが妥当かもしれません。
利上げ終了後も、政策金利を高い水準に据え置くことが想定でき、「利下げはまだ見えてこない状態」(同)との声が多く、やがてドル安が進むにしても穏やかなペースとなりそうです。エネルギーの輸入コスト高止まりなどを背景に本邦貿易赤字が続くという円安要因が残り続けるなか、「来年末で133円程度が予想できる状態」(同)とみる向きもあります。
もっとも、FRBも「今後のデータ次第」との姿勢を引き続き示しているとおり、状況次第で金融政策の姿勢もマーケットの見方も大きく変わりそうです。変化に応じて見通しを細かく調整していく必要がありそうです。