米CPI鈍化も米金利低下・ドル安は一時的
米消費者物価指数(CPI)の鈍化で一時は米金利が低下し、ドル相場が弱含む場面がありました。しかし米連邦準備理事会(FRB)高官から利下げ開始へ慎重な発言が相次ぎ、米金利水準・ドル相場は持ち直しています。FRBがインフレ目標の「2%到達の確信」を得るまで、利下げに慎重な姿勢は続きそうです。
5月15日発表の4月米消費者物価指数(CPI)は前月比+0.3%と市場予想の+0.4%を下回ったほか、前年比では+3.4%と市場予想通りだったものの3月の+3.5%よりも伸びが鈍化しました。エネルギーと食品を除くコア指数も前月比+0.3%/前年比+3.6%と市場予想通り3月よりも伸びが鈍化しています。
CPI鈍化に加え、同時に発表となった4月米小売売上高が前月比横ばいと、予想の+0.4%より弱い結果となり、3月分も下方修正されました。これらの結果を受け、米長期金利の指標である10年債の利回りは4.336%と、4月10日以来の低水準まで急低下しました(図表1)。
米長期金利は翌16日の時間外取引でも一時4.309%と、4月5日以来の水準までさらに低下。ドル円は根強い円先安観もあって底割れの感はありませんでしたが、5月15日に大きめな陰線を形成したのに続き、翌16日にも一時153円台へ下振れました(図表2)。
もっとも、15日のCPI鈍化直後にも、カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁からは「FRB(連邦準備理事会)は現在の金利水準をもう少し長く維持する必要がある」と、従来からのハト派な見解を改めて示す発言が聞かれました。
今年の連邦公開市場委員会(FOMC)金融政策決定の投票権を持たない同総裁による発言は米金利・ドル相場の動向に大きく影響しませんでしたが、翌日以降に他のFRB高官からも早期利下げに関して慎重な発言が続くと米金利水準は持ち直し、ドル円相場にも揺り戻しが入りました。米10年債利回りは足もとで4.45%台、ドル円は156円台へ戻しています。
相次いで利下げ慎重姿勢を示すFRB高官
16日、バーキン米リッチモンド連銀総裁は「CPIはまだFRBが目指す目標には達していない」「我々は正しい道を進んでいるものの、もう少し時間がかかりそうだ」との見方を述べていました。
同じく投票権を有するメスター米クリーブランド連銀総裁は「政策金利を現在の水準で維持することが、なお高水準で推移するインフレ率を目標の2%に戻すことにつながる」と発言。今年のFOMC投票権を有する連銀総裁がともに利下げに慎重な見解を示しました。
同日、ウィリアムズ米ニューヨーク連銀総裁も「当面利下げの必要性はない」と発言。「現時点で利上げの必要性もない」ともしていましたが、「インフレが2%に持続的に向かうという確信が依然として欠けている」との見解を述べています。
さらに17日、ボウマンFRB理事からは「インフレはしばらく高止まりするだろう」「インフレに関するさらなる進展、まだ見られない」「金利変更には引き続き慎重」としたうえで、「インフレ進展次第では利上げも辞さない」と、利上げの可能性に触れる発言も聞かれました。
キーとなる考え方は、ウィリアムズNY連銀総裁も触れていたインフレ水準に関する「2%到達の確信」の有無ということになりそうです。単月でCPIが鈍化した程度では、物価目標レンジへ向かう流れが持続していると決め打ちできないということでしょう。
今週に入ってからも20日、バーFRB副議長は「第1四半期のインフレには失望、金融緩和に必要な確信をもたらさなかった」と述べています。ジェファーソンFRB副議長も「ディスインフレの進展鈍化が長期にわたるかどうかを判断するには時期尚早」としていました。
FOMC投票権を持つデイリー米サンフランシスコ連銀総裁もやはり「インフレがどのような方向に向かうかを判断するには時期尚早」と発言。ここ最近は多くのFRB高官から口裏を合わせたかのようにインフレの継続的な低下に懐疑的な声が相次いでいます。
「2%到達の確信」がまだ揺らぐ状態のなか、米金利水準は一層の落ち込みを回避しそうです。ドル円相場も、円の先安観も手伝って底割れしにくいと思われます。
FRB高官が利下げに慎重な発言を繰り返すのは、これまで利上げで積み上げてきたインフレ抑制効果の早期はく落を回避する意図があるのかもしれません。FRB高官が「2%到達の確信」について自信を持って語るようになるまで、米金利が高水準を維持し、ドル相場が底堅く推移する展開が続きやすいと考えられます。