原油相場は中東リスク緩和期待の一時浮上や需要緩和観測で下落
原油相場は供給懸念や中東リスクの高まりによる上昇がピークアウトして、米国などの金融引き締め状態が続くとの見方や中東リスク緩和への期待、中国や欧州の需要観測から失速しています。「原油安」は産油国・資源国通貨を圧迫。「ハト派的利上げ」で頭が抑えられた豪ドルが、さらに下落幅を広げる動きなどにつながっています。
NY原油先物は最も取引最終日が近い限月である期近1番限のつなぎ足ベースで直近高値となる9月28日の95ドル付近から、75ドル付近まで下落が進みました(図表1)。
9月時点の上昇要因はまず、石油輸出国機構(OPEC)が10-12月期に世界の石油市場は日量300万バレル超の供給不足に直面する見通しを示したこと。同内容がOPEC月報で伝わると、世界的な需給引き締まり観測の高まりが原油相場を押し上げました。
アフリカの主要産油国の1つリビア東部で洪水が発生して、リビアの石油輸出に使われる7港のうち1つが長期にわたり閉鎖される見込みとなったことも重しとなりました。2022年のリビアの原油産出量は日量108.8万バレルと、アフリカの中ではアルジェリア、ナイジェリア、アンゴラに次ぐ量です。
サウジアラビアとロシアの減産延長宣言も需給ひっ迫懸念を誘いました。サウジはこの時点で日量100万バレルの自主減産を12月まで続けると改めて表明、ロシアも減産により年末にかけての輸出量が日量30万バレル減るとの見通しを示していました。
供給抑制による原油高は主要各国による金融引き締め継続観測の再浮上で9月28日に95ドル台をつけたところでいったん天井を打ちました。しかし10月に入るとイスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとの大規模戦闘による中東情勢の緊張が81ドル台から90ドル台までの2番天井形成を後押ししています。
しかし「欧米がイスラエルに対してガザ地区への地上侵攻を遅らせるように圧力」といったニュースが伝わり始めると再びピークアウト。国際エネルギー機関(IEA)関係者の「市場安定のために必要な戦略的石油備蓄量は十分」との話も伝わり重い動きが続きました。
そして直近では11月7日、10月中国貿易収支で黒字額が大幅に減少したことや、独9月鉱工業生産が予想から下振れるなど欧州の指標悪化・景気後退懸念などが、エネルギー消費大国・中国やこれまでエネルギー供給ひっ迫に悩まされていた欧州の需要が後退するとの見方を強めました。現状の「原油安」につながっています。
「原油安」で資源国通貨安、豪ドルは「ハト派的利上げ」も重し
足もとの「原油安」は、米金利低下による株式市場の持ち直しや対ドルでの各通貨上昇で底堅さを示していた産油国通貨カナダドルの伸び悩みや、産油国通貨・資源国通貨で株価動向や景況などリスクセンチメントに左右されやすい豪ドルの軟化を誘っています。
特に豪ドルは豪準備銀行(RBA、中央銀行)が7日、政策金利を4.10%から4.35%へ5会合ぶりに引き上げたものの、行き過ぎた利上げによる景気後退懸念も表明するなど追加利上げのハードルを示唆する「ハト派的利上げ」と受け止められたことも重しとなりました。対ドルで0.65ドル台へ持ち直したところから0.64ドル付近へ急落しています。
本邦投資家の外貨アセットとして人気の高い豪ドルは対円でも円安で持ち上げられた97円台から96円台へ急落(図表2)。「原油安」が産油国・資源国通貨の見通しを悪化させるなか、戻りが抑えられやすい状態が続く懸念があります。