言葉からひも解くマーケット

【言葉からひも解くマーケット】第32回「日銀新人事」確定目前、巻き戻しの円安

「日銀新人事」植田新総裁誕生へ

 

次期総裁候補に元審議委員の植田和男を起用する「日銀新人事」案が提示されました。24日予定の国会における所信聴取・質疑を経て同意が得られれば、4月9日には日銀新総裁に就任する運びとなります。

 

植田氏はマクロ経済・金融を専門とする学者で、理論と実践をバランス良く推し進めていく手腕を期待した人事といえます。異次元の黒田金融緩和から次のフレーズとなる「出口」への移行を託された「日銀新人事」といったところでしょうか。

 

ただ、今回の「日銀新人事」が異次元緩和の「出口」→「金利上昇・円高」につながると短絡的に捉えるのは必ずしも正解といえません。金融マーケットが当初早急に織り込もうとしていたタカ派的な思惑が、ここ数日は巻き戻しを余儀なくされています。

 

 

「日銀新人事」めぐり円相場は右往左往

 

昨年12月の日銀金融政策決定会合で、事実上の金融引き締めとされるYCC(イールドカーブコントロール)利回り許容幅の拡大を発表後、異次元緩和へ向けた本格的な出口が意識され、ドル円相場は円高の流れをたどりました(図表参照)。任期終了を迎える黒田総裁後の「日銀新人事」も、「出口」を意識したタカ派な体制になるとして円買いを後押ししました。

 

 

 

年明け以降128円割れまで円高が進んだところで「日銀新人事」の顔ぶれを評価するための様子見ムードとなりました。当初は黒田緩和の担い手の身内ともいえた雨宮副総裁が有力候補とされ、緩和解除へ向かうにしても段階を踏んだ手順になるとの観測から、いったん133円手前まで戻す動きとなりました。

 

しかし、雨宮副総裁が固辞し、「植田氏が総裁就任へ」と報道されると、130円割れへ押し戻されました。黒田緩和体制と距離を置く「日銀新人事」を現政権が望んでいるとの見方が、異次元緩和からの早期脱却を意識させたためです。

 

 

植田氏 かつてゼロ金利解除に反対票

 

ただ、この見方を背景とした円高は、植田氏が「現在の日銀の金融政策は適切、緩和継続が必要」と語ったことで早急に巻き戻される展開となりました。ドル円相場は雨宮副総裁が有力候補となったことで2月6日につけていた133円目前までの円安・ドル高水準を、さらに上抜く動きとなりました。

 

為替は、15日の1月米消費者物価指数(CPI)が予想より上振れたことによるドル高も手伝い、その後も円安傾向を維持しています。植田氏が、実情に即した適切なペースで緩和を解除するとの声もあり、円売り地合い支援の材料になるかもしれません。

 

植田氏は、かつて白川日銀体制下における2000年のゼロ金利政策解除の際、依然として需給ギャップが大きいことを理由に、解除反対の票を投じた2名のうちの1人です。「日銀新人事」下での総裁就任後も、経済状況に合わせて冷静な判断を下し、適切に緩和解除を進めていくことも想定できます。

 

「日銀新人事」を一因とした円安は、1月6日につけたドル円の2023年レンジ上限134.70円台の上抜けをうかがう様相となりつつあります。足もとの円安の流れがこのまま推し進むとしたら次の目標として、前述の2月6日高値133円手前から10日にいったん下振れた際の安値129.80円付近までの倍返し136円台も視野に入ってきそうです(図表矢印参照)。

 

ただ、慎重なペースになるにしても、歪みがある点を承知で進めてきた黒田異次元緩和の修正局面はいつかやってきます。足もとの巻き戻しの円安がどこまで進むか、出口に近づく過程で円相場がさらに荒れないか、新総裁となるであろう植田氏に期待するのと同様な冷静な判断を我々も忘れずに成り行きを追わなければなりません。

この連載の一覧
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
第39回「JOLTS」米雇用統計へ準ずる注目指標に
第38回「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断
第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
第36回「米銀破綻」金融政策への影響予想どっちつかずで不透明
第35回「FRB高官発言」欲望と恐怖の往復ビンタ
第34回「米利上げ長期化観測」根拠となった米経済指標の行方注視
第33回「FOMC投票メンバー」強いデータでタカ派へ傾斜
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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