「日銀新人事」植田新総裁誕生へ
次期総裁候補に元審議委員の植田和男を起用する「日銀新人事」案が提示されました。24日予定の国会における所信聴取・質疑を経て同意が得られれば、4月9日には日銀新総裁に就任する運びとなります。
植田氏はマクロ経済・金融を専門とする学者で、理論と実践をバランス良く推し進めていく手腕を期待した人事といえます。異次元の黒田金融緩和から次のフレーズとなる「出口」への移行を託された「日銀新人事」といったところでしょうか。
ただ、今回の「日銀新人事」が異次元緩和の「出口」→「金利上昇・円高」につながると短絡的に捉えるのは必ずしも正解といえません。金融マーケットが当初早急に織り込もうとしていたタカ派的な思惑が、ここ数日は巻き戻しを余儀なくされています。
「日銀新人事」めぐり円相場は右往左往
昨年12月の日銀金融政策決定会合で、事実上の金融引き締めとされるYCC(イールドカーブコントロール)利回り許容幅の拡大を発表後、異次元緩和へ向けた本格的な出口が意識され、ドル円相場は円高の流れをたどりました(図表参照)。任期終了を迎える黒田総裁後の「日銀新人事」も、「出口」を意識したタカ派な体制になるとして円買いを後押ししました。
年明け以降128円割れまで円高が進んだところで「日銀新人事」の顔ぶれを評価するための様子見ムードとなりました。当初は黒田緩和の担い手の身内ともいえた雨宮副総裁が有力候補とされ、緩和解除へ向かうにしても段階を踏んだ手順になるとの観測から、いったん133円手前まで戻す動きとなりました。
しかし、雨宮副総裁が固辞し、「植田氏が総裁就任へ」と報道されると、130円割れへ押し戻されました。黒田緩和体制と距離を置く「日銀新人事」を現政権が望んでいるとの見方が、異次元緩和からの早期脱却を意識させたためです。
植田氏 かつてゼロ金利解除に反対票
ただ、この見方を背景とした円高は、植田氏が「現在の日銀の金融政策は適切、緩和継続が必要」と語ったことで早急に巻き戻される展開となりました。ドル円相場は雨宮副総裁が有力候補となったことで2月6日につけていた133円目前までの円安・ドル高水準を、さらに上抜く動きとなりました。
為替は、15日の1月米消費者物価指数(CPI)が予想より上振れたことによるドル高も手伝い、その後も円安傾向を維持しています。植田氏が、実情に即した適切なペースで緩和を解除するとの声もあり、円売り地合い支援の材料になるかもしれません。
植田氏は、かつて白川日銀体制下における2000年のゼロ金利政策解除の際、依然として需給ギャップが大きいことを理由に、解除反対の票を投じた2名のうちの1人です。「日銀新人事」下での総裁就任後も、経済状況に合わせて冷静な判断を下し、適切に緩和解除を進めていくことも想定できます。
「日銀新人事」を一因とした円安は、1月6日につけたドル円の2023年レンジ上限134.70円台の上抜けをうかがう様相となりつつあります。足もとの円安の流れがこのまま推し進むとしたら次の目標として、前述の2月6日高値133円手前から10日にいったん下振れた際の安値129.80円付近までの倍返し136円台も視野に入ってきそうです(図表矢印参照)。
ただ、慎重なペースになるにしても、歪みがある点を承知で進めてきた黒田異次元緩和の修正局面はいつかやってきます。足もとの巻き戻しの円安がどこまで進むか、出口に近づく過程で円相場がさらに荒れないか、新総裁となるであろう植田氏に期待するのと同様な冷静な判断を我々も忘れずに成り行きを追わなければなりません。