言葉からひも解くマーケット

第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも

米大統領選は共和党候補トランプ氏が勝利へ、上・下院の共和党優位トリプルレッドも視野にいれた動きとなり、「トランプトレード」とされる株高・米金利上昇・ドル高が進み始めました。しかし人工知能(AI)の先導もあったこの動きの継続性「トランプトレードの賞味期限」が、ここからの焦点となります。投資家心理が追いつかないような激しい反動にも留意して臨むべきかもしれません。

 

 

米トリプルレッドも視野に「トランプトレード」進展

 

現地5日投開票の米大統領選におけるトランプ共和党候補の優位が伝わり、6日東京タイムの為替市場では「トランプトレード」とされる減税や景気浮揚策が米経済へ恩恵をもたらすことを見越した米金利上昇・ドル高を織り込む動きが進み始めています(図表1)。

 

 

 

ドル円は、大統領選を控えたテレビ討論会において互いのマイナス点を非難し合った後の世論調査でハリス民主党候補が優位となった局面では140円割れまでドル安が進む場面もありました。しかし、足もとではその時期の水準を大きく上回り、7月末以来の154円台を回復しています(図表2)。

 

 

 

大統領選の勝利とともに、米上下院いずれも共和党優位となるトリプルレッドも視野に入れた状態となってきたことで、政策の実行性も高まると期待されています。「トランプトレード」が進みやすい状態でした。

 

 

ここからは「トランプトレードの賞味期限」を吟味

 

ただ、ここからの焦点は米株高・ドル高が続くかどうかの継続性、「トランプトレードの賞味期限」となります。政策実行の裏付けとなる財源確保のための国債発行が債券価格の低下(金利は上昇)につながるところは規定路線でしょう。

 

一方で、政策が一時的な景気浮揚を誘い株高につながっても、米金利の上昇は米株市場にとって重しになります。拡張的な財政状況がいき過ぎと認識されれば、ドルの価値低下を招くとして巻き戻しのドル安が進む可能性もあります。

 

トランプ政権後に想定できる状況を、感情なく短絡的に人口知能(AI)を駆使したアルゴリズム取引が織り込んだ動きに対して、今後のマイナス面がより意識される状況となれば反動の動きも相応に激しいものになりそうです。対中関税など対外的な措置がインフレにつながり圧迫要因になるとの懸念もあります。

 

大統領選へ向けた局面で選挙戦の過熱を演出したのは米メディアの報道姿勢によるものだった面も多分にあります。激戦による関連報道の過熱がビジネス的にも好ましいとするメディアが、ハリス氏の経歴やこれまでの職務内容についての報道は同氏にとって不利に働く可能性もあるとして接戦演出のために伝えるのを回避していたとの憶測もあります。

 

そうした米メディアが、空けてみればトランプ・共和圧勝の凡戦に終わった選挙を材料として食い尽くし、次のネタとして財政状況の悪化を取り上げれば、報道フレーズに反応したAIが激しい揺り戻しを後押しするといったリスクにも気をつけなければなりません。

 

このような背景を踏まえ「トランプトレードの賞味期限」を吟味する展開となってきそうです。投資家の感情が追いつかないようなAIによる激しい動きに翻弄される状況も念頭に置いて臨む必要があるでしょう。

この連載の一覧
第122回「オントラック」日銀判断にらみマーケット上下
第122回「Xリスク再発」為替・日本株はトランプトレード巻き戻し
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
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第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
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第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
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第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
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第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
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第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
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第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
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第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
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第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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