言葉からひも解くマーケット

第123回「中国景気支援策」再び、リスク選好の継続性は?

中国の一歩踏み込んだ財政・金融政策スタンスが円売りや米金利上昇などリスク選好につながっている部分があります。しかし、さえない米株の推移など、新たな「中国景気支援策」効果の広がりが感じにくい部分もあります。バブル発生リスクなど政策の有効性に不確かな部分もあり、現在リスク選好の様相となっている部分の巻き戻しへの警戒が必要かもしれません。

 

一方踏み込んだ中国政策スタンスを受け円売り・米金利上昇などリスク選好の動きも

 

12月9日、中国共産党は中国政治局会議において「より積極的な財政政策実施」する方針を示しました。そして金融政策のスタンスについて「適度に緩和的」と、これまでの「穏健な」から一歩踏み込んだ内容に変更しました。

 

これにより、経済の立て直しとともに、景気浮揚策が効力を発揮しやすい金融環境が整うとして、投資家心理が楽観的な方向へ傾くとの見方が強まりました。海外マーケットではリスク選好の円売りや米金利上昇が強まりました。

 

ドル円は翌10日の海外市場で11月27日以来の152円台を回復する水準まで円安・ドル高推移。その後も底堅さを維持しています(図表参照)。

 

 

 

 

局所的リスク選好となるなかでも米株さえない

 

中国景気支援策」といえば、9月後半にも政策金利や預金準備率の引き下げ、不動産市場や株式市場のテコ入れ策を示していました。国慶節入り前から国慶節明けの局面における上海株の急騰を誘いました。

 

ただ、11月の米大統領選へ向けて、反中政策を掲げるトランプ共和党候補が優位との見方が強まるなか、ほどなく「中国景気支援策」による楽観は落ち着き始めました。その後、トランプ氏が次期大統領の座を勝ち取り、中国への関税強化の姿勢を表明したこともあり、戻りの限定される状態が続いていました。

 

今後の貿易摩擦を意識した今回の再度のテコ入れとなる財政・金融政策スタンスが、国慶節前に示された前回の景気刺激策と異なり、持続的に経済・金融市場の支えになると期待してよいのか判断が難しいところです。円相場や米金利は短期的にリスク選好の様相を示しているものの、再度の「中国景気支援策」の持続性は確信しにくいといえます。

 

今回の「中国景気支援策」がグローバルなリスク選好を誘っているとしたら、米株式市場がもう少し好反応を示すと考えられるます。ダウ平均は中国が積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策のスタンスを示す前からの続落をさらに進め、ハイテク主体のナスダック総合指数は反落しています。

 

いまのところ中国の政策を期待した米金利の上昇は株式市場にとってむしろ重し。米金利の上昇とともに株高も進む力強さを示すことはできず、リスク選好相場と明確には呼びにくい状態です。

 

かつて世界経済をけん引する大きな歯車となっていた中国の内需も、雇用改善の行方がおぼつかないなかでは景気刺激策の恩恵を受けにくいとみらます。中国の政策スタンス変更は局所的に効く部分もあるでしょうが、それはむしろ緩和策がバブルを生みかねないリスクもともなっています。

 

バブルリスクもある中国の政策発の局所的なリスク選好は、裾野が広がりにくいと考えられます。現在リスク選好の様相となっている円売りや米金利上昇といった部分の巻き戻しを警戒しながら金融マーケットを眺める状況が続くことになりそうです。

この連載の一覧
第123回「中国景気支援策」再び、リスク選好の継続性は?
第122回「オントラック」日銀判断にらみマーケット上下
第122回「Xリスク再発」為替・日本株はトランプトレード巻き戻し
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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