「欧州政局不安」ユーロを圧迫
フランスの与党苦戦が懸念される国民議会選挙の行方をにらんだ「欧州政局不安」が通貨ユーロを不安定にしそうです。財政負担増加を強いるような経済プログラム採用を掲げる極右勢力の勝利への不安や、他国へのムーブメントの広がりがユーロ相場の行方を厳しいものにするリスクがあります。
6月11日、「マクロン仏大統領が辞任の可能性を議論した」との一部仏ラジオ報道を受け、ユーロ売りが強まる場面がありました。「右傾化」が意識された欧州議会選挙後の「欧州政局不安」による売りは10日安値1.0730ドル付近を目先の底にいったん落ち着き、ユーロドルは一時1.0770ドル台へ戻していたものの、マクロン報道を受けて1.0740ドル台へ急落しました。
仏政府関係者は「辞任の可能性議論」報道の内容を否定したが反発力は鈍く、その後も1.0720ドル付近まで下落幅を広げました(図表参照)。否定したとはいえ、欧州議会選挙のフランス国民投票で大敗した内訳を踏まえ改めて意思を問いただすため、下院にあたる国民議会の解散・総選挙を発表したことにともない当然湧き上がる不安が根底にあります。
6-9日に掛けて行われた欧州連合(EU)の欧州議会選挙は、中道右派の欧州人民党(EPP)グループが議席を伸ばしたことに加えて、EU統合に懐疑的な極右政党も躍進。フランスを局所的にみると、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」も駆使して空中戦を制した28歳の若きリーダー・バルデラ氏による極右政党・国民連合(RN)が3割以上の票を獲得し、マクロン大統領率いる与党連合はその半数以下の票にとどまりました。
今月末30日を第1回選挙投票日として、7月7日に第2回投票を行う下院議院にあたる国民議会は、主に諮問機構として機能する元老院とともに両院制度のフランス国会を構成する重要な議会。法案審議などについての優先権は下院が有しています。
ちなみにRNは極右とされますが本邦報道で通常極右にカテゴライズされる政党とイコールのイメージではなく、そしてこれもイコールではないのですが強硬右派に近い扱いのようです。前党首マリーヌ・ルペン氏の父ジャン=マリ・ルペンが1972年に結成した極右政党・国民戦線(FN)から、2011年の党首引継ぎを経て、2018年にRNに改名して「普通の政党」と印象付ける戦略に腐心しています。
バルデラ現党首については、2027年の大統領選挙へ向けた行動とも考えられる前党首マリーヌ・ルペン氏の退任にともない後継者となり活躍していますが、マリーヌ・ルペン氏は実質的な支配力を有しているため、「ルペン氏率いるRN」と報じられることも多く見られます。
極右躍進なら財政圧迫必至、他国への広がりにも懸念
あしもとの通貨動向は米連邦準備理事会(FRB)金融政策の方向性・テンポ、関連して米雇用統計など景気の行方や物価などインフレ指標の強弱によるドル相場の上下に主導されやすい状態です。ただ、下院での優劣をかけたフランス総選挙で欧州議会選挙の勢いをまま極右勢力がリードするようことあれば、通貨ユーロの不安定要因になることは間違いないありません。
欧州議会選挙のフランスRN躍進を主導したバルデラ党首は、「現状の欧州議会議員から国民議会に鞍替えしない限り同議会選挙戦を主導することはないだろう」(シンクタンク系エコノミスト)といいますが、25才以下の有権者支持率3割強、18-19才レンジに限れば半数近い支持を集める同氏の威光にはまぶしいものがあります。
国民議会選挙でRNほか極右を軸とした政権が生まれれば、提唱する経済プログラムは付加価値税軽減など数千億ユーロ規模の負担増を強いる財政圧迫をもたらす政策であることも気掛かりなポイントです。前身であるFN時代に提唱していたユーロ離脱には、調査で現国民の7割以上が反対するなかでは簡単に進まないとみますが、極右的な背景による財政負担プログラムの採用がフランス主導で他国にも広がるリスクは十分にあります。通貨ユーロにとってもリスクをともなうフランス国民選挙の行方、「欧州政局不安」を注視する局面となります。