「トランプ関税」に対するインパクトはメキシコ・カナダへの導入先送りにより、いったん緩んだ感があります。しかし中国への追加関税は課され、中国は報復関税を表明。緊迫感はまだ限定的ですが、報復関税強化の余力がある中国の動向次第で貿易戦争が激化することが懸念されます。
「トランプ関税」表明で対象国の通貨売り先行
先週末1日、トランプ米大統領はカナダ、メキシコからの輸入品に25%の関税をかける大統領令に署名しました。中国に対しても10%の追加関税を課すとの大統領を発令しています。
現地4日からとされたいわゆる「トランプ関税」の発動を前に、週明け3日の金融マーケットでは、関税がインフレ率上昇を後押しするとの見方による米金利上昇・ドル高や、対象国通貨の売りが強まりました。カナダドルは対ドルで1.45カナダドル台から1.48カナダドル近辺までカナダドル安が先行しています(図表1)。
メキシコ・ペソも先週末の20.7ペソ付近から21.3ペソ水準をうかがうところまでペソ安が進行(図表2)。先週末に一時7.27元台へ強含んでいた中国人民元(オフショア)は7.37元付近まで人民元安となりました(図表3)。
「トランプ関税」への対抗措置としてカナダやメキシコが報復関税導入の姿勢を示したこともマーケットのリスク回避姿勢を強めました。
「トランプ関税」一部先送りも、対中国で導入へ
ただ、関税発動を前にシェインバウム・メキシコ大統領は3日、トランプ大統領と電話で会談。関税発動の1カ月延期にこぎつけました。
メキシコから国境を越えてアメリカへ流入する薬物や不法移民に対応していないことを理由に制裁関税を課すとしていましたが、国境警備強化で合意を得た格好です。ただ、規模の増加こそあれ国境警備の充実はメキシコもすでに課題に挙げていた項目でもありました。
米政権にとっては「トランプ関税」をちらつかせつつ、対象国との「ディール(取引・駆け引き)」成功を導き出すことが史上命題のように感じられます。これは米共和党内のフリーダム・コーカスら強硬派に配慮した演出との見方もできます。
トランプ氏にとっては株価の高値維持も大切な優先事項です。制裁・報復関税合戦による貿易戦争激化への懸念で米株がギャップをつけて急落した動き(図表4)を目の当たりにして、トランプ大統領もうまい落しどころがないか探る動きに出たとも考えられます。
メキシコに次いでカナダも3日、トルドー大統領が「約1万人の兵士が国境を警備する」と表明して30日間の関税先送りを勝ち取りました。この流れを受け、カナダドルやメキシコ・ペソは急速にカナダドル高、ペソ高方向へ戻しました。
しかし中国に関しては、まだ制裁関税や対抗措置の行方に出口が見えていません。カナダドルやメキシコ・ペソの動きに沿ったマーケット全般的な流れに乗って元安は一服しているものの、4日に予定されていた米中電話会談が延期になるなど不透明感に包まれたままです。
米現地4日に対中追加関税が課されたことで、中国もアメリカから輸入する石炭や液化天然ガス(LNG)に15%、原油、農業機械、大排気量の自動車に10%の報復と考えられる追加関税を導入しました。カナダ・メキシコへの関税導入がいったん見送られ、米株式マーケットが悲観的な状況を脱していったん底打ち感が生じていることもあって、アメリカは中国との交渉を焦らない可能性もあります。
ただ、追加関税を嫌気した貿易活動の停滞感が強まれば、物価の高まりにより米経済を下支えしている消費も圧迫されるでしょう。アメリカが中国の輸入品へ一律の追加関税を課していることに対して、中国は品目を絞って報復関税を課しています。トランプ政権の出方を見極めて、関税の範囲を見直してくる可能性もあります。
米政権が「トランプ関税」をちらつかせて「ディール」を仕掛けてきたように、中国も米国の動向を見定めて関税範囲を見直す、逆「ディール」のような動きを仕掛ける余力があるといえます。「トランプ関税」のファーストインパクトに一巡感は生じつつあるかもしれませんが、交渉が難航して中国がさらなる対抗措置に動くといった貿易戦争の激化をまだ警戒しておかなければならないとみておくべきでしょう。