言葉からひも解くマーケット

第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高

「日米労働市況格差」円とドルの実力の差に

 

2022年10月、昨年11月の152円手前までの動きに迫る151円台をうかがう円安・ドル高となっています。為替水準は日米経済や金融政策の格差の現れといえますが、足もとで意識されやすいのは「日米労働市況」の「格差」ではないでしょうか。

 

2月6日発表の昨年12月の毎月勤労統計調査(速報)によると、注目度の高い現金給与総額は前年比+1.0%と、市場予想の+1.4%を下回って前月11月の+0.7%からの改善は小幅にとどまりました。また、実質賃金は前年比-1.9%と21カ月連続のマイナス(図表参照)。減少率は2カ月ぶりに縮小しましたが、名目賃金が+1.0%と24カ月連続でプラスとなり実質賃金の改善へ相応に寄与しているにも関わらず、物価高の影響を拭いきれない戻りの鈍さを感じさせる内容です。

 

 

 一方で米国は3日の1月雇用統計とともに発表された同月の平均時給は前年比+4.5%と、市場予想や前月の+4.1%を上回る持ち直しを示しました。後日、消費者物価指数(CPI)とともに発表された週平均実質所得は前月比でこそ-0.3%と落ち着きを維持しているものの、前年比では+1.4%と底堅さを感じさせます。

 

「賃金の上昇をともなう好循環」達成が依然として難しい日銀。一方で賃金の上昇基調が潜在的なインフレ圧力として残り続ける米連邦準備理事会(FRB)を取り巻く環境。この「日米労働市況格差」が金融政策に対する見方の差となって足もとの為替動向に影響しているといえます。

 

 

22年、23年のような円安は回避?「もうはまだなり」に注意

 

とはいえ、次の金融政策の一手としては、日銀は「マイナス金利解除」とタカ派(金融引き締め)方向、FRBは利下げとハト派(金融緩和)方向である点は間違いないでしょう。ややいき過ぎて前倒しで織り込んだ部分のある日銀のタカ派行動、FRBのハト派行動をベースとした円買い・ドル売りを巻き戻す動きが足もとの円安・ドル高の大きな要因といえます。

 

いきすぎた分に対する巻き戻しが入り始めれば、ドル円の上昇も落ち着き、足もとの円安・ドル高方向への上振れ分をやがて縮小する動きへ向かうとみていいでしょう。2022年10月、昨年11月の円安・ドル高水準を大きく抜けていくような展開は想定しにくいといえます。

 

ただ、「もうはまだなり」といった流れには注意が必要です。「日米労働市況格差」などを材料に、円売り・ドル買いに安心感を持った動きが止まらなければ、そろそろピークと楽観して円買い・ドル売りを仕掛け直した向きのポジションが巻き戻される状態が続き、円安・ドル高が一層進むリスクにつながりかねません。

この連載の一覧
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第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
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第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
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第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
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第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
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第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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