7月の利上げ後に株安・円高が急激に進んだ動きの再発を回避しようとする「植田ショック予防線」を思わせるような日銀の動きがうかがえます。しかし金融マーケット参加者とうまくコミュニケーションが取れているとは感じにくく、バランスを取ろうとする発言やリークがむしろマーケットの振れを誘っているようでもあります。
バランス取ろうとする日銀
植田日銀総裁が11月28日公表のへのインタビューで「経済データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいているといえる」と利上げ時期接近ともとれる示唆に触れた一方、12月5日にはハト派の中村日銀審議委員がやはりオントラックであるかどうかに言及しつつ、「消費者物価(除く生鮮食品)前年比で2025年度以降は2%に届かない可能性がある」などと発言しました。
植田総裁発言で利上げに傾いた金融マーケットを、バランスを取るようにハト派委員が早期の利上げ予想を後退させるような発言をしており、7月会合の利上げ後のような「植田ショック」とも呼ばれた株急落・円急騰を招いた急激な金融マーケットの動揺を抑制する「予防線」のようなものを張った格好です。マーケットの反応を日銀スタッフがにらみつつ、金融政策の行方を見定めている感があります。
その後、11日には一部通信社が関係者筋の話として「消費者物価上昇に加速感が見られず、追加利上げを急ぐ状況にはないと日銀は認識」との内容を伝えました。13日にも日経新聞による「18-19日に開く金融政策決定会合で、政策金利引き上げの見送りを検討「米経済の先行きに不透明感が高まっているうえ、春闘の賃上げ動向を確認したい考えで、利上げを急ぐ必要はないとの判断に傾きつつある」との観測報道がありました。
植田発言後に6割超に達していた金融マーケットの動向から求める12月利上げの織り込み度は、会合を前に2割以下で推移しています。利上げリスクを多少念頭に置きつつも、金利据え置きを基本路線としている状態です。
コミュニケーションによるコントロール効かず
ただ、日銀は「植田ショック予防線」を思わせるバランスを意識したコミュニケーションを心掛けているようですが、むしろそれによって金融マーケットが振らされてしまうミスコミュニケーションを誘っているように感じられます。
5日午前の中村日銀委員のハト派的な発言後、ドル円は150円前半から後半へ上昇したものの、午後の会見で「利上げに反対しているわけではない、データに基づいて判断するべき」と述べると149円後半まで下押すなど荒っぽい動きに。一方向へ金融マーケット参加者の思惑が傾きすぎないようにとの配慮があるのかもしれないですが、発言で荒っぽく上下してしまう印象です。
そして、その後の12月利上げ回避の観測記事は、11日分が151円台から152円後半への上振れを誘い、13日分は足もとの円安を後押ししています。12月の利上げ見送りに対するプレアド(事前通知)として日銀サイドからリークされたような内容ですが、これらの観測記事を受け、ドル円は7月の日銀金融政策決定会合で円安抑制のために0.25%への利上げが決定された水準でもある154円台まで戻す格好となったのです(図表参照)。
「植田ショック予防線」のようなフォローの発言やリークで株急落・円急騰のような事態は回避できているかもしれませんが、一層の円安進行も懸念されかねない為替動向ともいえます。利上げの前提となるオントラックの状況の証左になるとされた7-9月期実質国内総生産(GDP)改定値が上方修正、2月調査日銀短観(大企業製造業の業況判断指数DI)が予想に反して改善するなかでも円買い戻しは進んでいません。
日銀は、マーケットをうまくコントロールできていないようであり、これで円買い介入への警戒さえ高まってしまうなら、ミスコミュニケーションと言わざるを得ません。「植田ショック予防線」のような発言やリークが、かえって為替の荒っぽい動きを誘いやすい神経質な状況にしばらく付き合う必要がありそうです。