言葉からひも解くマーケット

第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか

次期政権を意識した当初の「トランプトレード」はドル買い先行

 

トランプトレード」とされる米金利上昇・ドル高を想定した動きが先行する場面がありました。しかし、その動きに巻き戻しが入っています。民主党候補がハリス副大統領に交代した現況においても、次期政権が共和・民主いずれになろうともドルは重く推移しやすいとの見方に傾いているようです。

 

現地6月27日の米大統領選討論会は風邪気味で臨んだバイデン大統領が精彩を欠き、トランプ前大統領有利の判定につながりました。その後の金融マーケットではトランプ氏の勝利を見越した「トランプトレード」が先行しました。

 

当初の「トランプトレード」とされる反応は、公約に掲げた減税や関税引き上げが実施された場合を前提とする米国債売り(米金利上昇)・ドル買いを想定した動きでした。財源として発行が増えた債券の需給だぶつきや、政策による景気の下支えで利下げしにくくなることが米金利の高止まりにつながり、ドルが底堅く推移するとの見方でした。

 

ドル円は「トランプトレード」によるドルの底堅さを織り込む動きで7月3日に1986年12月以来、約37年半ぶりの高値161.95円まで上昇。160円超えの高値圏でもみ合ったのち10日にも161.81円と、162円台をうかがう動きを見せていました(図表参照)。

 

 

 

米国による対中関税の引き上げが予想され、中国による報復的な関税引き上げも重なり、インフレ率上昇による米金利高となることを想定した動きも並行して進みました。しかし当初のこうした「トランプトレード」には次第に修正が入りました。

 

 

トランプトレード」は巻き戻しへ

 

第2期トランプ政権となれば、パウエル連邦準備理事会(FRB)議長を交代させる圧力が働き、FRBへの利下げ圧力によって年限の短い米債券の利回りを中心に低下圧力が掛かり、ドル相場にはネガティブに働くとの見方となってきたのです。実際にパウエル議長がすぐに退任へ追い込まれるまでに至らなくとも、2022年からの議長2期目の4年の任期切れを迎えたところでの再延長はなく、代替の議長はハト派的な人物になるとの見方も織り込まれ始めました。

 

前述の161円台の高値をつけたあとの調整は金融マーケットの注目度が高かった11日発表の米消費者物価指数(CPI)の伸び鈍化や、そのタイミングに乗じた3兆円規模と推察される本邦通貨当局による円買い介入がきっかけとなりました。しかし、その後の戻りの鈍さは当初の「トランプトレード」で見込まれていたドル買い・円売りのポジションを巻き戻す動きも多分に影響しているとの見方でした。

 

17日にトランプ前大統領がインタビューで「米国はドル高により大きな問題を抱えている」と述べて足もとのドル高をけん制したほか、河野太郎デジタル相が円安是正のため、日銀に政策金利を引き上げるよう求めたことも手伝ってドル売り・円買いが加速。同週末19日には155円台までドル安・円高が進んでいます。

 

そして現地21日、コロナ陽性ともなっていたバイデン大統領は大統領選からの撤退を決断。ハリス副大統領を後任候補として支持するとしました。

 

週明け、バイデン氏撤退へのドル円の反応は不明確でした。一方で週明けのあるアンケートでハリス副大統領の支持率は44ポイントと、同アンケートにおけるトランプ前大統領の支持率42ポイントを上回る結果を示しました。

 

ハリス氏の2ポイントのリードは誤差の範囲で、激戦州の勝敗で簡単に行方が分かれるレベルの違いと判断されています。ただ、アンケートの内容は、それまで不利に傾いていたバイデン大統領との交代が明らかに功を奏したものと評価されています。

 

ハリス氏勝利の場合は民主党政権2期目に多くあるドル高へ傾くのではとの見方が当初は優勢でした。しかしトランプ氏に対抗して掲げる経済政策は、同様に国債発行や財政赤字増加につながるのではないかとされ、ドルにとって次第に重しになるとの見解が優位となりつつあるようです。

 

今後の大統領選の優劣の行方や、ハリス氏の政策の詳細が明らかになってくるのを待たなければならないですが、現時点では両党ともに財政を圧迫する政策に傾きがちで、財政の健全性を損なう可能性がじわじわとドル相場の重しになってくるとの見方です。

 

ユーロ圏など他の主要地域・国の財政も問題を抱えていることから、多くの通貨に対してドルが底堅さを維持する可能性はあります。しかし金融政策の正常化を図ろうとしていて円買いに傾いていきやすい日本の状況もあって、対円でのドルはこれまでの円キャリートレードの巻き戻しも相まって、調整が先行しやすいとの声が聞かれます。

この連載の一覧
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
第39回「JOLTS」米雇用統計へ準ずる注目指標に
第38回「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断
第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
第36回「米銀破綻」金融政策への影響予想どっちつかずで不透明
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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