「サプライズ必至」の日銀YCC修正めぐりマーケット右往左往
先週末7月21日16時半頃、一部通信社が日銀関係者の見解「現時点でイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)政策の副作用に緊急に対応する必要性は乏しいとみている」を伝え、一部でくすぶっていた今週末27-28日開催の金融政策決定会合におけるYCC見直しの思惑を否定する格好となりました。
YCC見直しは金融緩和解除へ向けた布石と受け止められており、その観測後退で為替は円安へ急激に振れました。ドル円は140.30円付近から一時142円回復目前まで急上昇しています(図表参照)。
米現地26日結果公表の連邦公開市場委員会(FOMC)を控えて前々週の土曜日にあたる15日から米連邦準備理事会(FRB)は関連の情報発信を差し控えるブラックアウト期間へすでに入っていました。欧州中央銀行(ECB)高官も27日の金融政策決定理事会を控えた1週間前からのブラックアウト期間に入っていたほか、動意につながりそうな主要経済指標発表など予定されていない週末だったこともあり市場参加者の手控え感が強い状態でした。流動性の乏しさも「YCC見直しなし」のニュースを受けた為替の反応を大きくしたようです。
YCCについては、実際に運用変更の決定以前に織り込みが進んでしまうと、変更後の金利誘導水準を前提にマーケット参加者が取引を進めることへの対応として、日銀が修正実施以前に金利水準を維持する場合は膨大な金額を費やすオペレーションを余儀なくされます。そうした政策運用の性質上、「サプライズ」なタイミングの発表となるのは「必至」となります。
「サプライズ必至」の性質を持つYCC見直しが否定されれば、手探りながら見直しの思惑を背景に本邦金利上昇や円高推移を見込んでいた向きはポジションの取り崩しにかかり、円安方向への揺り戻しも相応の大きさになるのです。
他の材料やFOMC、ECBを前にしたポジション整理も交錯して円売りの動きはいったん落ち着いたものの、ドル円は同YCC関連報道が伝わった際の水準140.30円付近より依然として円安で推移しています。
YCC修正は物価見通し実現性を判断後の10月・12月会合か
FOMC、ECBといった主要中銀の金融政策発表イベントをこなしつつ28日、日銀の金融政策発表を迎えることになります。専門家の8割が10月会合までにはYCC修正を行うと予想しているとされ、7月変更の可能性についても5割の人が見込んでいたようですが、18日にインドの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出席した植田日銀総裁が「持続的・安定的2%インフレ達成にはまだ距離」と発言し、まず早期YCC修正観測後退を意識させる一因となっていました。
その後、内田日銀副総裁による「金融仲介機能や市場機能に配慮しつつ、いかにうまく金融緩和を継続するかという観点からバランスをとって判断」と、その他の制約条件に言及しつつもYCC見直しの可能性に含みを持たせたインタビュー内の発言で修正実施観測が再び持ち直しました。
先週末の「YCC見直し否定」報道で再び7月会合の修正観測は後退しましたが直近にきて25日、一部通信社の「日銀は2023年のインフレ見通しを大幅に引き上げる」との観測報道を受け、
・「物価見通し引き上げへ」→「YCC見直しへの布石」
との連想を働かせるマーケット参加者もいるようです。
ただ、オーソドックスな解釈ではないかもしれませんがYCCを修正するにしてもマーケットへショックを与えることを極力回避するため慎重なペースで進めることが物価水準回復を促す条件になると考えることもできます。
・「順調に物価回復する見通し」が前提→「YCC修正が可能・実施へ」
といった流れではなく
・「慎重なペースのYCC修正」でショック回避が前提→「順調に物価回復へ」
と、「前提」と生じる「結果」の因果関係がねじれて受け止められている可能性もあります。
植田総裁は5月の懇談会で述べていた「拙速な政策転換によりようやく見えてきた2%の物価目標達成の芽を摘んでしまうコストは極めて大きい」との姿勢をその後も繰り返し示しています。先週末の「修正なし観測」報道で急激に円安へ振れたマーケットの反応が、日銀上層部の警戒感を改めて高めたことも想定できます。
「サプライズ必至」のYCC修正を安易に進め、マーケットへショックを与える事態を7月会合の段階では回避するとみます。その上で見通しの上方修正がささやかれている物価水準の回復を確実にしてから9月以降、おそらく上方修正した物価見通しの実現性を判断してからの10月か12月の会合をめどにYCC修正へ動くと予想します。