10カ月ぶりドル高・円安、当局がけん制
為替の円安進行に対して本邦当局からけん制発言も聞かれます。しかし「ファンダメンタルズから乖離(かいり)」と主張しにくい面もあり、マーケットの修正が素直に進むか難しさがあります。
米レーバーデーによるNY休場明けの9月5日、原油高を受けて米金利が上昇。ドルが買われ、ドル円は昨年11月4日以来、10カ月ぶりの高値147.80円まで上昇しました。
原油はサウジアラビアが現行の日量100万バレルの自主減産を年末まで延長するとのニュースで上昇。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)10月限は一時1バレル=88ドル台と中心限月ベースで昨年11月以来、10カ月ぶりの高値をつけています。
原油相場の上昇はインフレの高止まりを意識させ、米金利を押し上げました。米10年債利回りは4.27%まで水準を回復しました。
米金利上昇を後押しに10カ月ぶりのドル高・円安となるなか、本邦当局サイドからは円安けん制の発言が聞かれました。為替管轄の財務省・神田財務官は6日朝8時ごろ登庁時の記者の問いかけに応えたと思われる発言で「足もとをみると投機的な行動、『ファンダメンタルズ』では説明できない動きがみられる」と延べました。
「ファンダメンタルズから乖離」ゴリ押しだけではマーケットの修正進みにくい
しかしこの局面の動きは「ファンダメンタから乖離」と主張しにくい点があります。10カ月ぶりのドル高・円安というレベル感はあるものの、インフレ懸念を背景とした米金利上昇も一因となっているからです。
米金利水準が持ち直すなか、本邦金利水準は総じて低位なまま。6日午前、高田日銀審議委員からは「現行の大規模な金融緩和を粘り強く続ける必要ある」との見解も聞かれました。
日米金利差を意識したドル買い・円売りが依然として進みやすい状態です。ドル相場の全般的な強弱を示すドルインデックスは7月に2022年4月以来、1年3カ月ぶりの100ポイント割れとなった足もとの安値圏からようやく持ち直すところであり(図表参照)、ドル高がいき過ぎと主張しにくい状況です。
松野官房長官は6日夕刻、為替相場について「過度な変動は経済に悪影響を及ぼしうる」としていました。しかし円安デメリットがより意識されやすかった昨年の円安局面より、ここもとは単純に円安を批判しにくいといえます。
昨年はコロナ禍で輸出が停滞して、海外からの観光客も受け入れにくい状況でした。しかし輸入物価押し上げの悪影響だけが目立った昨年と変わって、今年は円安の恩恵を受けやすい自動車、そしてサービスの輸出拡大傾向も観測されています。
「悪い円安」だけが目立ち、従来は株式市場で意識されやすかった「良い円安」の側面に目が再び向き始めています。こうしたなかで米金利の上昇に合わせてドル相場が相応に持ち直して対ドルで円安が進んでも、当局のけん制はマーケットに支持されにくいでしょう。
本邦当局も、円安による輸入物価上昇を通じた物価高が野放図に広がる状態をないがしろにはできません。円安加速に対して口先や場合によって実弾介入を行うことも考えられます。しかし「ファンダメンタからかい離」との認識がいま一つ盛り上がらないままでは介入効果も一時的でマーケットも追随できません。
米クリーブランド連銀のメスター総裁が5日「政策金利をやや引き上げる必要があるかもしれない」と述べた一方、ウォーラー米連邦準備理事会(FRB)理事が「再び利上げするかどうかはデータが左右」「データは差し迫って何かをする必要があることを示していない」と発言するなど米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー間でも方向性が定まっていないこともあり先行きに不透明感はあります。神経質な局面ですが本邦当局者が「ファンダメンタからかい離」とゴリ押しするだけでは、マーケットの修正が大きく進む展開になりにくいでしょう。