足もとの景況指標は軒並み改善
ユーロ圏の景況改善を背景にユーロ相場が堅調さを取り戻しつつあるように見えます。しかし回復が循環サイクルによる一時的なものであれば程なく失速へ。ユーロ相場も安定を欠く推移に逆戻りしかねません。
米長期金利が低下するタイミングで複数のユーロ圏経済指標改善が確認されました。為替市場では通貨ユーロがユーロ高・ドル安推移。11月29日には一時1.1009ドルと8月10日以来、3カ月半ぶりに1.1ドル台を回復しました(図表1)。
まず、14日発表の11月独ZEW(欧州経済研究所)景況指数が、+5.0程度を見込んでいた市場予想を大きく上回る+9.8となりました(図表2)。同景況指数(景気期待指数)はユーロ圏の景況指標のなかでも先行指標的なものと位置づけられています。
5月分がマイナスに落ち込み、7月分が-14.7と直近のボトムをつけて以降は徐々に持ち直し、半年ぶりにプラス圏へ浮上しました。
ユーロ圏の経済指標で最も為替ほか金融マーケットの動意につながりやすいとして注目される購買担当者景気指数(PMI)も改善しました。
23日発表の11月独PMI速報値は、
・製造業 42.3(市場予想 41.2、前回 10月 40.8)
・サービス部門 48.7(市場予想 48.5、前回 48.2)
ユーロ圏全体の数値も
・製造業 43.8(市場予想 43.4、前回 43.1)
・サービス部門 48.2(市場予想 48.1、前回 47.8)
いずれも予想以上の改善を示しました。
翌24日、ユーロ圏統合以前から代表的な欧州景況指数として重視されていた独Ifo企業景況感指数は11月分が87.3と、前述の関連指標の改善で目線が上がっていた市場予想の87.5より若干弱めでした。しかし10月分の86.9よりも強く、3カ月続けて改善しています。
改善は循環的なものに過ぎない可能性
ただ、足もとの景況指標の回復は製造業の在庫循環が一巡したことによるもので、しっかりした回復軌道をたどっていると確信できるものではありません。回復の流れが早々に頭打ちとなるのであれば、ユーロ相場も戻りも一時的に終わってしまうでしょう。
順調な景気回復軌道が確信できない大きな理由1つとして、ドイツなどユーロ圏経済をけん引する国々の「コスト構造の変化」があげられます。
東西ドイツ統合後の苦境を脱することができたのは「安いエネルギーをロシアから輸入して、高い経済成長をしている中国向けに大量輸出するといったモデル」(ヘッジファンド・ストラテジスト)によるものだったといいます。
しかし、ウクライナとの戦争に対する西側諸国の制裁への対抗措置や、関連した物理的な供給制約により、これまでのようにロシアから安価なエネルギーを得ることができなくなりました。中国も以前の2桁成長から、手を尽くしてどうにか5%程度の成長を確保するにとどまる状態です。
生産コストがアップした一方で、主要輸出相手国・中国の購買力低下に挟まれた「コスト構造の変化」が、順調な成長軌道確保を難しくしています。ドイツをはじめとしたユーロ圏主要国が「コスト構造の変化」によるマイナスをカバーできる代替の国家的ビジネスモデルを早急に構築することも困難です。
循環的な回復が一巡すればユーロ圏経済も再び下向きのサイクルに逆戻りしそうです。24日、デギンドス欧州中央銀行(ECB)副総裁からは「2023年下半期のユーロ圏経済は停滞」などの発言も聞かれました。さえない景気を嫌気したユーロ伸び悩みとなるリスクに配慮しながらマーケットを見守ることになりそうです。