「フィッチ・ショック」早々にこなし焦点は景気・インフレへ
格付け会社フィッチの米国債格下げを早々に織り込み、マーケットの関心は景気やインフレ動向に移っている感もあります。しかし米財政や欧米金融マーケットを取り巻く信用状況といったリスク要因の行方には注意しなければなりません。
アメリカ現地8月1日、同日ビジネスタイムの金融マーケット引け後、格付け会社フィッチ・レーティングスは外貨建てアメリカ国債の格付けを最も信頼度が高い「AAA」から1段階低い「AA+」に引き下げることを明らかにしました。マーケット関係者のなかには「フィッチ・ショック」と呼び懸念を寄せる声も聞かれました。
同格下げを受けて信用度低下を意識した債券の売り(利回り上昇)が先行して米長期金利の指標となる10年債の利回りは4%台で上昇余地を探る動きとなりました。格下げ発表に先がけて米財務省は7月31日、7-9月期の必要借入額の見通しを7330億ドルから1兆ドルへ大幅に引き上げおり、需給要因も同局面の利回り上昇を促す要因になっていました。
ただ、アメリカの翌2日ビジネスタイムの金融マーケットで金利上昇を後押ししたのは併せて7月ADP全米雇用報告が強い結果となるなど経済指標が後押しとなった面もあります。政府部門を除く非農業部門雇用者数が+32.4万人と、市場予想の+18.9万人を上回ったことが材料になったのであり、債券の信用や需給を懸念した悪い金利上昇だけでなく、景気の底堅さを反映した良い金利上昇もミックスされた状態といえます。
それがうかがえるのは週末4日の動き。NYマーケット序盤に昨年11月以来の水準4.2%台まで米長期金利は上昇していたものの、米雇用指標のメインイベントともいえる7月米雇用統計の強弱まちまちな結果が発表されると金利は頭打ちとなってしまいました。
米雇用統計では非農業部門雇用者数が+18.7万人と、市場予想の+20.0万人を下回ったことへ強く反応しました。金利は4.03%台へ失速しています。
もっとも同統計で雇用の伸びは鈍化したものの増加が続いて失業率は3.5%、平均時給が前月比+0.4%/前年比+4.4%と予想より強い内容だったことへの見直しも入り、週明け7日に米長期金利は一時4.12%台へ反発。景気の底堅さを見込んだ債券売りが盛返す場面もありました。
マーケットは「フィッチ・ショック」のインパクトを早々に織り込み、すでに経済指標の強弱など景気・インフレ動向へ焦点を移行している感があります。もちろん米政府の借金が膨らみ債券需給が悪化するとの見方が根強い点は忘れてはなりませんが。
「ショック」の芽が大きくなっていくリスク警戒
米国債の格下げに関しては2011年8月に米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による「AAA」から「AA+」への引き下げをマーケットはすでに経験済みです。3大格付け会社の1つではあるものの、そのなかでは規模が最も小さいとされるフィッチの格下げがマーケットにインパクトを残し続ける材料になるかは不透明です。
なお3大格付け会社のもう1つムーディーズは同社の最高格付け評価ランク「Aaa」を維持しています。そのためマーケット全体としては米国債の最高位ランクの扱いが続くと思いますが、財政問題が長引くとして同社も格下げに動くリスクに留意は必要です。
加えてムーディーズが7日、バンク・オブ・ニューヨーク・メロンやUSバンコープほか主要米銀7行、中小行10行の格付けを引き下げた動きには注意しなければなりません。金融不安による米景気への悪影響を恐れて、安全資産として債券を買う動きとなりむしろ金利は低下しましたがリスク回避が意識されるという点で軽視できない動きです。
「春先以降に顕在化したシリコンバレー銀行の破綻を契機とした金融不安からくる信用収縮の影響もあり、現時点では年末から来年にかけてマイルドな景気後退に陥ると予想」(シンクタンク系エコノミスト)との見方もあります。
8日、イタリア政府が銀行に超過利潤税を課すことを承認したことで欧州金融セクターを取り巻く状況への懸念が高まった経緯もあります。欧米金融マーケットに関連した不安を含む信用状況を注視すべきでしょう。
「フィッチ・ショック」は、まだマーケットへさほど「ショック」を与える状況にはなっていません。しかし財政や金融マーケットの材料に端を発する信用問題が息長くじわじわと影響を浸透させ「ショック」の芽を大きくしていくことへの警戒を怠ってはいけません。