言葉からひも解くマーケット

第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫

対中関税」引き上げが象徴する米中対立が世界経済の歯車を狂わせそうです。インフレ再加速の懸念から米利下げペースが弱まり、一方で日銀が利上げしにくい状況になってきたこともあり、ドル高・円安へ振れる場面もありますが、不透明な状況がリスク回避につながることも想定でき、荒っぽい動きになりやすいと考えられます。

 

対中関税」引き上げ見越し米金利上昇

 

来年、第2次トランプ政権が成立します。トランプ次期大統領は公約にあげていた「対中関税」の引き上げを実行に移すことになるでしょう。

 

中国からの輸入品の関税を60%に引き上げる見込みです。他国からの輸入品についても10-20%の関税をかけることになりそうです。

 

対中関税」引き上げにより中国の米国向け輸出は減少するでしょう。安価な中国製品の流通が停滞することになります。他国への関税引き上げも、同様の影響をもたらすでしょう。

 

次期トランプ政権が中国経済へ与える悪影響ほか、中国政府による経済支援策が金融マーケットの支持をうまく得られないこともあって、中国の通貨・人民元が売られています。12日、香港、シンガポールなど中国本土外の居住者が取引する国外(オフショア)市場で取引される人民元のレートは、対ドルで8月頭以来の水準1ドル=7.25元まで元安が進みました(図表参照)。

 

 

 

ただ、「対中関税」引き上げは中国へ局所的に悪影響を与えるだけにとどまりません。安価な中国製品が流通しにくくなることで、アメリカ国内のインフレが高まることが懸念されています。

 

米次期政権は製造業など自国産業の競争力向上を目的に「対中関税」の引き上げを短絡的に推し進めるのでしょうが、メリットだけを受け取るだけにはいきません。ようやく落ち着いてきたインフレ率の再上昇につながることを金融マーケットも見越しています。

 

米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しが急速に後退しています。インフレ再加速への懸念から、米10年債利回りは7月初め以来の高水準4.4%台へ上昇しています。足もとでは次期政権の景気拡大策を期待して米株高へ振れやすい面もありますが、金利上昇を嫌気して伸び悩む場面も散見されます。

 

 

さえない中国株や利上げできない日銀、状況は不透明

 

中国市場では株価の戻りの重さがより目立ち始めてきました。政府の景気刺激策による上海総合株価指数の押し上げは3500ポイント付近で息切れしています。

 

対中関税」の影響だけでなく、政策金利引き下げや不動産市場の下支え策などの効果は期待外れに終わったことも材料ではありますが、中国株の頭打ちを受けて日経平均株価も4万円を前に足踏み状態となっています。株式市場のさえない状況を受け、日銀が利上げを進めにくくなったともいわれています。

 

米利下げペースが失速、日銀が利上げしにくいとなれば、日米の金利差縮小の思惑も弱まります。ドル円は円安・ドル高方向へ傾きやすく、円安が本邦輸出企業の株価など中心に株式市場を下支えする局面もあるでしょう。

 

とはいえ、株式市場の上昇などをともなうリスク選好の円売りが続きやすいともいえません。米インフレ再加速による金利上昇が米経済にじわじわ悪影響を及ぼすことや、米中対立が世界経済のサイクルを大きく狂わすことへの不安もくすぶっています。

 

米金利上昇・日銀の利上げ休止を背景に円安が進む場面があっても、米景況の停滞を嫌気したドル売りや、さえない中国株の動向をにらんだ本邦株安によるリスク回避の円買いに振らされることもあるといった荒っぽい展開が想定できます。不透明感の強い状況が続くことになりそうで。

この連載の一覧
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
第39回「JOLTS」米雇用統計へ準ずる注目指標に
第38回「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断
第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
第36回「米銀破綻」金融政策への影響予想どっちつかずで不透明
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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