日銀YCC運用再修正、本邦長期金利は上昇
日銀は金融政策を基本的に据え置きつつも政策運営の一部運用いわゆるイールドカーブ・コントロール(YCC)を再修正しました。しかし微修正と市場は認識。物価引き上げが「第1の力」と呼ばれる外的要因から「第2の力」とされる国内要因に移行する安定感が欠けた状態で、円安も止まりません。
日本銀行は10月31日、金融政策決定会合で「長短金利操作YCCについて、短期政策金利-0.1%、10年物国債金利の操作目標ゼロ%程度という水準を、いずれも現状維持とすることを全員一致で決定」したことを公表しました。
資産買入れ方針も含めて基本的な金融政策を据え置いた一方、YCC運用の更なる柔軟化を賛成多数で決定しています。長期金利上限の「めど」を1.0%とし、大規模な国債買入れと機動的なオペ運営を中心に金利操作を行うこととしました。
7月会合時点では1%の長期金利上限を「念のため」としながらも「キャップ」する水準とする運用方針へYCCを修正していました。今回表現を「めど」へ弱めに修正したことで、長期金利が1%を一定程度超える局面があっても容認すると受け止められる内容です。
この結果を受け同日、それまで米長期金利の上昇の影響を受けつつも0.9%未満で推移していた本邦長期金利は一時0.955%と10年5カ月ぶりの水準へ急上昇。翌11月1日に0.970%まで水準を切り上げる場面もありました。1%の節目回復をうかがう状況です。
YCC修正では円安阻止できず
ただ、ドル円は会合前日30日の欧米タイムにリークともいえる「YCC再修正」を示唆した日本経済新聞電子版の報道が伝わったところで150円手前から148.80円近辺へ下振れたものの下げ渋りました(図表参照)。日銀会合の結果を確認すると「微修正の範囲」として150円台を回復しました。
さらに31日19時発表の財務相による為替介入額がゼロと伝わると、同月4日の円急騰局面でも介入がなかったとの失望でドル高・円安が進行。10月26日につけた150.78円を上抜けると勢いづき151円台への復帰も果たしました。
加えて米経済指標の好結果も手伝って151.72円まで上伸しています。昨年2022年10月21日につけた1990年7月以来の高値151.95円も視野に入れた格好です。
円安阻止には「第1の力」から「第2の力」への移行が必要
日銀は政策の一部運用、YCC修正をじりじりと進めています。それにもかかわらず日米金利差縮小の思惑が高まらないのは、米国をはじめ依然として一段の高水準を維持している海外のインフレ状況や、それにともなうより高い海外金利水準を反映した円安による輸入物価上昇が日本のインフレを多少押し上げているにすぎないからでしょう。
日銀は輸入物価上昇が国内物価に波及する圧力を「第1の力」と表現して、これだけでは安定的に2%の物価目標をするには不十分との認識を示しています。目標実現には、賃金上昇にともない物価上昇する好循環が生じる「第2の力」へバトンタッチする状態が望まれるとしています。
「第1の力」から「第2の力」への移行が不十分な状況下の日銀金融政策では日米金利差縮小の思惑は高まりません。ファンダメンタルズからすれば円安が止まりにくい状況です。
現状のままでは、急激に円売りが進んで「ファンダメンタルズからかい離」と財務省が「自己認定」するような局面で円買い介入によりお茶を濁す程度に円安ペースを一時的に緩めるだけに終始しかねません。物価を引き上げる力が「第1の力」から「第2の力」主体へ移行できるかどうかが、為替を含めた日本の経済状況を左右することになるでしょう。