インフレ対応優先でECB大幅利上げ継続
インフレ警戒でインフレ警戒を緩めない欧州中央銀行(ECB)と、やや引き締め姿勢を緩めてきた米連邦準備理事会(FRB)、「欧・米金融政策格差」が意識されそうです。為替のユーロ高につながる展開が予想されます。
3月16日のECB理事会では、0.50%の利上げが決定されました。政策金利は3.50%と2008年以来、約15年半ぶりの高水準になりました。
一部では、複数米銀の破綻やクレディ・スイスの経営状況悪化・救済など、金融システム不安の広がりから、利上げ幅の縮小あるいは利上げ休止との見方も浮上していました。しかし、2月の理事会でも示唆していた通り0.50%利上げが決定されました。
インフレ状況改善の必要性が、大幅な利上げ継続の背景となりました。昨年7月に利上げサイクルに入って以降、9月、10月の0.75%利上げを含め、6会合連続での0.50%以上の大幅な利上げが続いています。
ユーロ圏のインフレ状況は、ヘッドラインの数字こそ前年比で昨年10月分の+10.6%を天井に、直近2月分は8.5%まで低下と、いったんピークアウトしています。原油や天然ガス資源価格の調整が、ヘッドラインのインフレの伸び率の落ち着きに寄与しました。
しかし、変動の大きい食品・エネルギー・酒・たばこなどを除いたベースのコア指数は上昇が加速する流れにあり、+5.6%まで切り上がっています(図表)。ECBのインフレ目標2%を大きく上回るレンジで伸び続けています。
ヘッドラインのインフレが落ち着きかけたことも、通常は寒波になりやすいラニーニャ現象が発生していたにもかかわらず、暖冬でエネルギー価格の伸びが鈍化したことが功を奏したという偶発的な要因もありました。
サマーシーズンもエネルギー価格は落ち着きが続く可能性はあり、しばらく改善傾向を維持するかもしれません。しかし、来冬に再びエネルギー価格が上昇し、ヘッドラインのインフレが再加速するリスクはくすぶったままです。
物価動向を考慮すると、ECBは容易にインフレ対応・引き締め姿勢を緩めることはできないでしょう。ラニーニャ現象による厳冬を警戒して、予め政府が物価高による景気・家計圧迫のリスクに備えて支援体制を整えていた面もあったため、暖冬のなか想定より経済は底堅く推移しています。経済の大きな落ち込みが回避できそうなことも、インフレ対応の金融引き締めを後押ししそうです。
金融不安くすぶるなかの「欧・米金融政策格差」ユーロを支援
ECBが当初に想定されていた0.50%利上げを断行した背景には、金融不安への疑心暗鬼がさらに高まる事態を回避したいとの思いもあったようです。利上げ幅が縮小されていたら、「我々がうかがい知れないような金融のリスクをECBが握っているのではないかと思われかねない」(シンクタンク系エコノミスト)との見方です。
一方、テック系・暗号資産関連企業を主な融資先としていた複数の米銀破綻や経営困難に陥る銀行が出てくるなか、米FRBの利上げペースは鈍化し始めています。もっとも、金融不安が高まる以前に、FRBはすでに相応に高い水準まで金利引き上げを先行させ、コアも含めて米インフレが落ち着く兆候を示していたことも要因です。
今後の金融不安の行方次第の面はありますが、引締め姿勢を維持する可能性があるECBと、引締め効果を見極めるため利上げの手を緩め始めたFRB、「欧・米金融政策格差」をマーケット参加者は意識するでしょう。為替市場ではユーロ相場の底堅い動きにつながりそうです。もちろん、ラガルドECB総裁が理事会後の記者会見で述べていたように、今後の「データ次第」ではあります。