米長期金利5%乗せもドル円は150円台に定着できず
米長期金利は5%乗せも、債券需給悪化による「悪い金利上昇」ではドル円の150円台定着は難しいでしょう。26日発表の米GDP改善といった「よい金利上昇」を支援する材料が必要です。
週明け10月23日の欧米市場で米10年債利回りは一時5.019%前後まで上昇しました(図表参照)。2007年7月以来、16年ぶり以上となる高水準です。
ドル円は米長期金利の5%乗せに先がけ、週明け早朝の取引の薄いオセアニア市場でこそ一時的に150円台へ上振れたものの、すぐに150円割れへ押し戻されています。主体が東京市場に移行して市場参加者が増えて流動性が回復すると上昇の勢いは後退しました。
同日、前述の欧米市場で米長期金利が5%台に乗せた場面でドル円は150円手前で足踏み。著名投資家ビル・アックマン氏が「米長期債のショートを買い戻した」と明らかにすると「他の市場参加者が追随して買い戻しに動いた(金利は低下)」とされ金利が頭打ちとなると、ドル円も下押ししています。
3日に150.16円まで年初来高値を更新し、昨年10月に152円手前まで1990年以来、33年ぶりの高値を更新して以来の高値圏で上伸を狙う動きとなっているものの150円の大台に定着できません。
介入警戒感は強いが、「断固たる」円安阻止の「選択肢」示しきれていない面も
ドル円が伸び悩む要因としてすぐ思い浮かぶのは、本邦通貨当局の円買い介入への警戒感でしょう。ややさかのぼり13日になりますが、12日のモロッコ・マラケシュでの主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議へ出席後の鈴木財務相から「(為替に関して)場合によっては適切な対応求められる」「為替レートの過度な変動は望ましくない」など円安けん制発言が改めて聞かれました。
一方、同じくマラケシュで開催されたIMF(国際通貨基金)・世界銀行年次総会に出席したIMFのパンス・アジア太平洋局副局長は14日、ファンダメンタルズ面において日本が為替介入を行うような「条件は見当たらない」と否定的な見解を述べました。同氏は日本の関連当局が「(ファンダメンタルズに関して)私が知らないことを知っているかもしれない」としつつも「金利差がある限り(通貨の)下落圧力に直面する」としています。
その後16日、介入実務を担当する財務省の神田財務官は、急激な通貨安に対しては「金利を上げることによって資本流出を止めるか、為替介入で過度の変動に対抗」との姿勢を示しました。もっともパンスIMF副局長の発言には「反論もしないしコメントもしない」として、為替の変動への対応について述べた内容についても「一般論」であるとするにとどめています。
市場がドル円の150円水準での介入に対する警戒感を抱いているのは確かです。しかし本邦当局者が介入行動のキーワードともいえる「断固」とした意思を持って、円安阻止の「選択肢」を明確に示すには至っていません。
26日の米GDP「悪い金利上昇」脱する材料になるか
直近の米長期金利上昇の内容がドル円の素直な上昇につながりにくい事情もあるようです。米議会上下両院は9月30日、政府つなぎ予算を可決。確実視されていた連邦政府機関閉鎖を土壇場で回避しました。
ただ、これは10月1日から45日間の予算執行を可能にしただけ。11月半ばには同様の米国債格下げリスクが再浮上することになります。
つなぎ予算が底をつくのは時間の問題。財源確保のため増発する米国債を量的緩和の一環として少し前まで旺盛に購入していた米連邦準備理事会(FRB)に、現状は債券価格の下支えを頼れない状態に転じています。
足もとの米金利上昇は、議会予算の枯渇リスクによる米国債格下げへの懸念や、債券需給のだぶつきにより進んでいる面が多分に含まれています。こうしたネガティブな要因も背景とした「悪い金利上昇」は、ドル円が33年ぶりの高値圏で上値を伸ばす支援になりにくいのです。
17日発表の強い9月米小売売上高など、米経済の堅調を背景とした「よい米金利上昇」を意識させる材料も散見されます。加えて26日発表予定の7-9月期米国内総生産(GDP)速報値が事前予想通り前期比年率4%台と、前期4-6月期の+2.1%を大きく上回るなど追加的な「よい金利上昇」を後押しする材料が増えれば、ドル円の高値更新の流れは盤石になるでしょう。