為替介入の警戒より高める「日米韓共同声明」
急激に進む円安・韓国ウォン安の懸念を共有する「日米韓共同声明」を受け、本邦通貨当局による為替介入への警戒感がより高まっています。しかし米国の行動もともなう「協調介入」への期待が高まったとはいえません。ドル円相場は依然としてドル高・円安トレンドの継続性を見定める局面といえます。
4月17日NYタイム、ドル円は日韓の通貨安懸念への言及を含む「日米韓共同声明」を受けて、154円半ばから154円前半へ下振れました。その後も戻す場面を挟みみつつ下値を探り、翌18日に154円割れ、19日には153円半ばまで下落幅を広げています。
同声明には「最近の急速な円安及びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、既存のG20のコミットメントに沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」との内容が述べられていました。日韓が米国も含めて通貨安への懸念を共有する異例の声明となりました。
会合に先がけ、「最近の自国通貨安に深刻な懸念」を述べていた鈴木財務相と韓国の崔経済副首相兼企画財政相が、通貨高となっている米国のイエレン財務長官も巻き込む形で円・韓国ウォンの過度な変動に対する懸念を共有できたことが大きなポイントになります。
鈴木財務相は、イエレン財務長官とも個別に会談を行っており、その場でも急激に進む円安に対して、行き過ぎた変動局面で適切に対応すること、つまり為替介入に関する理解を求める説明を行ったといいます。これに関して為替介入の実行責任者ともいえる財務省の神田財務官は「(米国と)意思疎通はできている」との認識を述べています。
「日米韓共同声明」後も続く円安
ただ、その後もドル円相場は円安・ドル高方向への動きを続けています。本邦通貨当局による円買い介入への警戒感が日々高まるなかとあって段階的な動きであるものの1990年6月以来、約34年ぶりの高値を更新する動きが進んでいます。
日本や韓国が自国通貨安による輸入物価の高騰への対処として為替介入を行うことについて、基軸通貨国とされる米国を含む枠組みにおいて話し合いを進めることができたのは大きな成果でした。しかし「既存のG20のコミットメントに沿って」という形に限定するような文言を借りたことで、米国にもどうにか懸念を共有してもらう理解を得られたといったところです。
ちなみに20カ国・地域(G20)コミットメントとは、2021年4月のG20、さかのぼって2017年5月のG7(主要7カ国)の会議においても確認された「為替レートの過度な変動や無秩序な動きが、経済および金融の安定に対して悪影響を与え得る」との内容。今年2月のG20でも改めて確認されている事項を指したものです。
「日米韓共同声明」も協調介入は難しいか
ただ、この限りにおいては、「日本や韓国が為替変動の急激な変動に対応するためのスピード調整を目的に単独で為替介入を行う理解が得られた」程度とマーケットは受け止めているでしょう。今回の「日米韓共同声明」は、為替の流れ転換に有効とされる協調介入への門戸を開いた第1歩とするマーケット関係者の声も一部には聞かれます。
しかし多くのマーケット参加者は、円や韓国ウォンの下落およびドル買いのトレンドを食い止めるような行動の可能性が大きく高まったとは考えていないようです。この受け止めが足もとの円安(あるいは韓国ウォン安)・ドル高の流れ持続につながっているのでしょう。
ただ、次期米大統領選における共和党の有力候補であるトランンプ前大統領が23日、SNSで34年ぶりのドル高・円安に対して「米国にとって大惨事」と述べていたことは一応留意しておきたい点です。もしトラ(=もしもトランプ氏が再び大統領に返り咲いたら)の場合の協調介入リスクをマーケットは意識しそうです。実際に大統領にならなかったとしても、共和党候補に選ばれたり、大統領選本選に出馬して接戦となったりしたら、相応に協調介入リスクを織り込む相場展開になると想定できます。
もっとも基本的には、日本が利上げや単独の為替介入に動いたとしても、日米金利差が依然として大きいなかでは、円安・ドル高水準にあるドル円相場がレンジを大きくシフトする流れになりにくいといえます。利下げ先延ばし観測を高める米連邦準備理事会(FRB)金融政策と、25-26日に金融政策決定会合を行う日銀の動向をにらみつつ、円安・ドル高トレンドの継続性を見定める局面が続くとみます。