言葉からひも解くマーケット

第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?

為替介入の警戒より高める「日米韓共同声明」

 

急激に進む円安・韓国ウォン安の懸念を共有する「日米韓共同声明」を受け、本邦通貨当局による為替介入への警戒感がより高まっています。しかし米国の行動もともなう「協調介入」への期待が高まったとはいえません。ドル円相場は依然としてドル高・円安トレンドの継続性を見定める局面といえます。

 

4月17日NYタイム、ドル円は日韓の通貨安懸念への言及を含む「日米韓共同声明」を受けて、154円半ばから154円前半へ下振れました。その後も戻す場面を挟みみつつ下値を探り、翌18日に154円割れ、19日には153円半ばまで下落幅を広げています。

 

 

 

同声明には「最近の急速な円安及びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、既存のG20のコミットメントに沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」との内容が述べられていました。日韓が米国も含めて通貨安への懸念を共有する異例の声明となりました。

 

会合に先がけ、「最近の自国通貨安に深刻な懸念」を述べていた鈴木財務相と韓国の崔経済副首相兼企画財政相が、通貨高となっている米国のイエレン財務長官も巻き込む形で円・韓国ウォンの過度な変動に対する懸念を共有できたことが大きなポイントになります。

 

鈴木財務相は、イエレン財務長官とも個別に会談を行っており、その場でも急激に進む円安に対して、行き過ぎた変動局面で適切に対応すること、つまり為替介入に関する理解を求める説明を行ったといいます。これに関して為替介入の実行責任者ともいえる財務省の神田財務官は「(米国と)意思疎通はできている」との認識を述べています。

 

 

「日米韓共同声明」後も続く円安

 

ただ、その後もドル円相場は円安・ドル高方向への動きを続けています。本邦通貨当局による円買い介入への警戒感が日々高まるなかとあって段階的な動きであるものの1990年6月以来、約34年ぶりの高値を更新する動きが進んでいます。

 

日本や韓国が自国通貨安による輸入物価の高騰への対処として為替介入を行うことについて、基軸通貨国とされる米国を含む枠組みにおいて話し合いを進めることができたのは大きな成果でした。しかし「既存のG20のコミットメントに沿って」という形に限定するような文言を借りたことで、米国にもどうにか懸念を共有してもらう理解を得られたといったところです。

 

ちなみに20カ国・地域(G20)コミットメントとは、2021年4月のG20、さかのぼって2017年5月のG7(主要7カ国)の会議においても確認された「為替レートの過度な変動や無秩序な動きが、経済および金融の安定に対して悪影響を与え得る」との内容。今年2月のG20でも改めて確認されている事項を指したものです。

 

 

「日米韓共同声明」も協調介入は難しいか

 

ただ、この限りにおいては、「日本や韓国が為替変動の急激な変動に対応するためのスピード調整を目的に単独で為替介入を行う理解が得られた」程度とマーケットは受け止めているでしょう。今回の「日米韓共同声明」は、為替の流れ転換に有効とされる協調介入への門戸を開いた第1歩とするマーケット関係者の声も一部には聞かれます。

 

しかし多くのマーケット参加者は、円や韓国ウォンの下落およびドル買いのトレンドを食い止めるような行動の可能性が大きく高まったとは考えていないようです。この受け止めが足もとの円安(あるいは韓国ウォン安)・ドル高の流れ持続につながっているのでしょう。

 

ただ、次期米大統領選における共和党の有力候補であるトランンプ前大統領が23日、SNSで34年ぶりのドル高・円安に対して「米国にとって大惨事」と述べていたことは一応留意しておきたい点です。もしトラ(=もしもトランプ氏が再び大統領に返り咲いたら)の場合の協調介入リスクをマーケットは意識しそうです。実際に大統領にならなかったとしても、共和党候補に選ばれたり、大統領選本選に出馬して接戦となったりしたら、相応に協調介入リスクを織り込む相場展開になると想定できます。

 

もっとも基本的には、日本が利上げや単独の為替介入に動いたとしても、日米金利差が依然として大きいなかでは、円安・ドル高水準にあるドル円相場がレンジを大きくシフトする流れになりにくいといえます。利下げ先延ばし観測を高める米連邦準備理事会(FRB)金融政策と、25-26日に金融政策決定会合を行う日銀の動向をにらみつつ、円安・ドル高トレンドの継続性を見定める局面が続くとみます。

この連載の一覧
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
第39回「JOLTS」米雇用統計へ準ずる注目指標に
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第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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