やってはいけないこれだけの理由

【やってはいけないこれだけの理由】第17回「市場との対話、今回は大失敗?」

今回の「やってはいけない」ことは、FX市場に参入する我々ではなく、

政府・財務省などが為替の世界へ間違えたメッセージを送ってしまい、大失敗している(やってはいけない)ことについて記載します。

 

市場との対話とは

 

今月13日ホルツマン・オーストリア中銀総裁が「次回のECB理事会について市場は適切に認識している」と述べるなど、各国の中銀関係者は中銀の意向を、市場が正しく認識しているかを気にしています。

これらのことを、「市場との対話」という言葉で言い表されます。

 

中銀及び財務省などの関係者が、市場が金融・為替政策などの行方を正しく理解してもらうことは非常に重要なことです。

「投機する人たちを気にすることは無い!」などの意見があるのも理解していますが

金融界にメッセージを受け止めてもらうことは非常に重要なことなのです。

 

金融のスペシャリストたちに方向性が理解できないのであれば

金融界よりも金融については目を配っていない、

一般の投資家や企業はもっと理解できないでしょう。

 

為替の世界でも市場との対話がうまくいかず、間違ったメッセージが伝わると

輸出や輸入予約をしたい企業は、適切な水準での為替予約ができなくなります。

この影響で本邦の企業は余計な為替負担がかかり、そして日本経済にも悪影響を与えてしまいます。

 

だからこそ、政府・財務省・中銀の方向性を市場に理解してもらうこと(=市場との対話)が重要になるわけです。

 

史上最悪の市場介入か?

 

9月22日に、日銀は財務相からの指令で、これまでで最大規模となるドル売り・円買い介入を行いました。

市場では22日介入前に付けた高値145.90円近辺が、

ある程度のシーリング(天井)になると捉えた人が多かったようです。

 

これまでの介入では、シーリング近辺では再介入が行われることがあり

市場参加者だけでなく、(今回の場合は)ドルを買う必要がある企業も、

その水準を意識し、できるだけコストを低く抑えようとする努力をしていました。

 

しかしながら、それ以後は同水準近辺での介入は観測されず

このシーリングはいとも簡単に今回は突き抜けて、更に円安が進みました。

これまでで最悪の介入との声が様々な方面から聞こえてきます。



何のための介入だったのか?

 

シーリングを超えた挙句の果てには、その後に出てくる財務省関係者の発言は

「水準よりボラティリティ」との見解が多くなりました。

 

過度な動きが起こった場合に為替介入を行うことは理解できますが

介入を行うことは市場では、それ以上の水準まで(今回は)円安が進むと経済的に痛手なので

介入を行うと理解することが、ほとんどです。

 

日本も輸入物価が9月は48.0%まで上がるなど、円安で家計への影響が大きく出ていることで

そのための為替介入と思っていた市場参加者がほとんどでした。


しかし、ボラティリティのためだけの介入で、そのまま円安傾向が続いています。

家計負担は変わらず、本邦経済も厳しいままでしょう。


いったい、誰のための、何のための介入だったのでしょうか?

 

介入の副作用


これまで介入についての手法などについて4回にわたって記載してきました。

そして、介入には副作用があることもお伝えしてきています。


今回の副作用はまさに非常に大きくなっています

介入というパンドラの箱を開けたことで、145.90円近辺がシーリングと捉えただけではなく

市場は「いつか介入がまた行われる」ことを期待してしまいました。

 

2.8兆円などという莫大な介入を行ったことで、

仮に介入が入ればドルが大きく下がることを期待した市場参加者が増加しました。

よって、介入期待で買い控えになり、介入前よりもドル買い意欲が増加してしまいました。


FXの取引で鞘を抜いている投資家(いわゆる投機)はともかく

ドル円を買いたい実需勢などは、介入を行ったことで大幅に買い遅れてしまっています。


岸田首相が「投機絡みの急速な動きは問題」と発言しましたが、問題は投機筋ではなく

輸入手当などを行おうとしていた本邦実需勢をふくめたリアルマネーが、円買い介入の弊害で

買い遅れてしまっていることなのです。



メッセージの責任は?


岸田首相は国会で「国際社会への連携が重要」とも発言しています。

しかし、欧州中央銀行(ECB)をはじめ複数の中央銀行が、自国通貨安がインフレを導いていることで懸念を表明していましたが

多くの中銀は為替介入には踏み切りませんでした。

 

その中で、他国よりもインフレが進んでいない日本だけが介入を行ったのにもかかわらず、

「連携」などが出来ていないのは明白です。

 

また、10月上旬には世界銀行、国際通貨基金(IMF)、G20などの国際会議が相次いで開かれたのにも関わらず、

共同声明が発表されないほど「連携」が取れていません。


そして、ドル独歩高にもかかわらずバイデン米大統領、イエレン米財務長官などの米要人はドル高に懸念を表明していません。

よって、直近で国際的な連携が取れることは考えにくいでしょう。

 

22日の介入以後も財務省や政治家から。理解できるメッセージが市場にはまったく伝わってきません。

間違ったメッセージを送った責任はどのようにして補うのか、今後が注目されます。

この連載の一覧
第122回「トランプ相場もアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第121回「第2次トランプ政権・・・Xを見ないでやってはいけない」
第120回「いよいよ大統領選挙・・・この通貨の動向を知らないでやってはいけない」
第119回「円買いの流れを一瞬で止めた石破政権・・・今後の政局を知らないでやってはいけない」
第118回「想定為替レートを知らないでやってはいけない」
第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」
第116回「ダブル石破ショック・・・今月は政治に翻弄されることを知らないでやってはいけない」
第114回「ディーラーは変わり身が早いのを知らないでやってはいけない」
第113回「FRBの2大責務…今は何を重要視しているかを知らないでやってはいけない」
第112回「バイアスがかかった考えをもってやってはいけない」
第111回「円相場を見るならアジア通貨の動きを見ないでやってはいけない」
第110回「7・8月の相場を振り返る・・・この反省を生かさないでやってはいけない」
第109回「日銀の政策決定会合の結果発表時間がなぜ定まらないのか」
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第107回「日銀のパラダイムシフト…これまで通りの考えでやってはいけない」
第105回「スポーツ賭博もFXも②・・・嘘が常態化する人はやってはいけない」
第104回「自分が一番大事?・・・様々なことを勘繰らないでやってはいけない」
第103回「円安を本当に止める気があるのか・・・何が信用できるかを確かめないでやってはいけない」
第102回「クロス円をしっかり見ないでやってはいけない」
第101回「介入を過度に警戒してはいけない」
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
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第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
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第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
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第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
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第54回「新聞を確かめずにやってはいけない」
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第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
第51回「対ドル以外の取り引きを見ないでやってはいけない」
第50回「時間帯を知る②東京市場とは・・・これを知らずにやってはいけない」
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第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
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第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
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第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
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第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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