今回の「やってはいけない」ことは、FX市場に参入する我々ではなく、
政府・財務省などが為替の世界へ間違えたメッセージを送ってしまい、大失敗している(やってはいけない)ことについて記載します。
市場との対話とは
今月13日ホルツマン・オーストリア中銀総裁が「次回のECB理事会について市場は適切に認識している」と述べるなど、各国の中銀関係者は中銀の意向を、市場が正しく認識しているかを気にしています。
これらのことを、「市場との対話」という言葉で言い表されます。
中銀及び財務省などの関係者が、市場が金融・為替政策などの行方を正しく理解してもらうことは非常に重要なことです。
「投機する人たちを気にすることは無い!」などの意見があるのも理解していますが
金融界にメッセージを受け止めてもらうことは非常に重要なことなのです。
金融のスペシャリストたちに方向性が理解できないのであれば
金融界よりも金融については目を配っていない、
一般の投資家や企業はもっと理解できないでしょう。
為替の世界でも市場との対話がうまくいかず、間違ったメッセージが伝わると
輸出や輸入予約をしたい企業は、適切な水準での為替予約ができなくなります。
この影響で本邦の企業は余計な為替負担がかかり、そして日本経済にも悪影響を与えてしまいます。
だからこそ、政府・財務省・中銀の方向性を市場に理解してもらうこと(=市場との対話)が重要になるわけです。
史上最悪の市場介入か?
9月22日に、日銀は財務相からの指令で、これまでで最大規模となるドル売り・円買い介入を行いました。
市場では22日介入前に付けた高値145.90円近辺が、
ある程度のシーリング(天井)になると捉えた人が多かったようです。
これまでの介入では、シーリング近辺では再介入が行われることがあり
市場参加者だけでなく、(今回の場合は)ドルを買う必要がある企業も、
その水準を意識し、できるだけコストを低く抑えようとする努力をしていました。
しかしながら、それ以後は同水準近辺での介入は観測されず
このシーリングはいとも簡単に今回は突き抜けて、更に円安が進みました。
これまでで最悪の介入との声が様々な方面から聞こえてきます。
何のための介入だったのか?
シーリングを超えた挙句の果てには、その後に出てくる財務省関係者の発言は
「水準よりボラティリティ」との見解が多くなりました。
過度な動きが起こった場合に為替介入を行うことは理解できますが
介入を行うことは市場では、それ以上の水準まで(今回は)円安が進むと経済的に痛手なので
介入を行うと理解することが、ほとんどです。
日本も輸入物価が9月は48.0%まで上がるなど、円安で家計への影響が大きく出ていることで
そのための為替介入と思っていた市場参加者がほとんどでした。
しかし、ボラティリティのためだけの介入で、そのまま円安傾向が続いています。
家計負担は変わらず、本邦経済も厳しいままでしょう。
いったい、誰のための、何のための介入だったのでしょうか?
介入の副作用
これまで介入についての手法などについて4回にわたって記載してきました。
そして、介入には副作用があることもお伝えしてきています。
今回の副作用はまさに非常に大きくなっています
介入というパンドラの箱を開けたことで、145.90円近辺がシーリングと捉えただけではなく
市場は「いつか介入がまた行われる」ことを期待してしまいました。
2.8兆円などという莫大な介入を行ったことで、
仮に介入が入ればドルが大きく下がることを期待した市場参加者が増加しました。
よって、介入期待で買い控えになり、介入前よりもドル買い意欲が増加してしまいました。
FXの取引で鞘を抜いている投資家(いわゆる投機)はともかく
ドル円を買いたい実需勢などは、介入を行ったことで大幅に買い遅れてしまっています。
岸田首相が「投機絡みの急速な動きは問題」と発言しましたが、問題は投機筋ではなく
輸入手当などを行おうとしていた本邦実需勢をふくめたリアルマネーが、円買い介入の弊害で
買い遅れてしまっていることなのです。
メッセージの責任は?
岸田首相は国会で「国際社会への連携が重要」とも発言しています。
しかし、欧州中央銀行(ECB)をはじめ複数の中央銀行が、自国通貨安がインフレを導いていることで懸念を表明していましたが
多くの中銀は為替介入には踏み切りませんでした。
その中で、他国よりもインフレが進んでいない日本だけが介入を行ったのにもかかわらず、
「連携」などが出来ていないのは明白です。
また、10月上旬には世界銀行、国際通貨基金(IMF)、G20などの国際会議が相次いで開かれたのにも関わらず、
共同声明が発表されないほど「連携」が取れていません。
そして、ドル独歩高にもかかわらずバイデン米大統領、イエレン米財務長官などの米要人はドル高に懸念を表明していません。
よって、直近で国際的な連携が取れることは考えにくいでしょう。
22日の介入以後も財務省や政治家から。理解できるメッセージが市場にはまったく伝わってきません。
間違ったメッセージを送った責任はどのようにして補うのか、今後が注目されます。